瀬戸康史(撮影・小暮 誠)
瀬戸康史(撮影・小暮 誠)
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『いま、会いにゆきます』などで知られ、発達障害を公表している作家・市川拓司さんの自伝的小説『私小説』がドラマ化される。高校時代に出会った妻への愛をすべての原動力とする作家ジン役を体現した瀬戸康史さんが見つめた「愛」とは?

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「役づくりはシンプルでした。妻である優美(ゆみ)のことが大好きで愛してる!ということを、まっすぐに演じるだけ。それがジンであり、モデルである市川さん自身を表現することなのかなと」

 そう語る瀬戸さん。本作で演じた恋愛小説家ジンは、外に出ることや3人以上と会うことがうまくできない。点滅する光や大きな音が怖く、食べられないものが多い。なにより苦手なのが「人の悪意」だ。外出先で攻撃的な人や言葉に少しでも触れるとパニックを起こし、その場から動けなくなってしまう。ジンの特性は発達障害を抱える市川さんと重なる。

「演じるときに『障害』という意識はあまりなかったんです。僕も絵を描いていると、集中しすぎて平気で6時間くらい経っていることがある。もちろん市川さんの才能とは比べものにもなりませんが、共感できる部分が多かった。市川さんは小説を書いている途中におでこに保冷剤をつけたり、家の中を走ったりすることで自分の中にあるものを発散し、コントロールして創作をしている。大変なことだと思うけれど、でもパニックを起こすことも、没頭しちゃって熱くなることも個性の一つという感覚でとらえました。変に過剰になるのではなく無理なく演じられれば、とは思ったんです。それにたぶん、どの役を演じるときも僕の中でのやり方は一緒なんです。自分の中にあるものしか表現できないというか。僕は『木』をいつも想像するんです。この瀬戸康史という幹があって、さまざまに枝分かれをした先にあるのが作品や役だったりする。そしてそこについた『実』が役に対する完成品かなと」

 そんな個性を持つジンの最大の理解者であり伴走者が妻の優美だ。ドラマは高校時代に出会い、結婚した二人の絆に焦点を当てている。

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