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 スマートフォンさえあれば、いくらでも暇を潰せる現代。しかし、心理学者の榎本博明氏は、手持ち無沙汰で退屈な状況を持つことが必要だと説く。新著『60歳からめきめき元気になる人 「退職不安」を吹き飛ばす秘訣』(朝日新書)から一部抜粋、再編集し、解説する。

【表】スマホ依存は不眠や体調不良の原因に

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 退職後はやることがなく暇になるだろうと、暇になることを恐れる定年前の人たちが少なくないようだが、暇の効用に目を向けることが大切だ。忙しい働き盛りの頃は「暇がほしい」と切実に思うこともあったのではないか。

 ようやく暇になるのだから、勤勉な自分のイメージは脱ぎ捨てて、後ろめたさなしに堂々と暇を楽しめばよい。

 暇すぎると当然ながら退屈になる。退屈するのは苦痛かもしれないが、忙しい日々を長らく経験してきたのだから、一度極度の退屈を経験するのもよいかもしれない。

 私たちは、普段から外的刺激に反応するスタイルに馴染みすぎているのではないだろうか。スマートフォンやパソコンを媒介とした刺激を遮断されると、すぐに手持ち無沙汰になる。でも、情報過多によるストレスやSNS疲れを感じている人も多いうえに、何よりも考える時間が奪われている。

 スマートフォンがなかった時代には、電車の中では本や新聞を読む一部の人以外は何もすることがなく、どうにも手持ち無沙汰なものだった。考えごとをするか、ひたすらボーッとして過ごすしかなかった。

 とくに思索に耽るタイプでなくても、そうしていると気になることがフッと浮かんできて、あれこれ思いめぐらせたものだった。過去の懐かしい出来事や悔やまれる出来事を思い出し、そのときの気持ちを反芻することもあっただろう。今の生活に物足りなさを感じ、いつまでこんな生活が続くのだろうと思ったり、これからはこんなふうにしようと心に誓ったり、この先のことを考えて不安になったりすることもあっただろうし、ワクワクすることもあっただろう。

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退屈な時間は人にとって貴重な時間