車いすテニス界の新星、小田凱人が全仏に続き、ウィンブルドンも制した。レジェンド国枝慎吾の後を追いながらも「自分は新しい道を」と意気込む。AERA 2023年8月7日号の記事を紹介する。
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シャンパンを開けたい気分ですが、僕はまだ17歳。炭酸水でお祝いしたいと思います」
7月16日、テニスのウィンブルドン選手権・車いすの部の男子シングルスで初優勝した小田凱人のスピーチだ。流暢な英語で会場を笑わせた。
世界ランキング1位の小田は車いすテニス以上にテニスの映像を見るのが好き。目の肥えたウィンブルドンのファンから盛大な拍手を浴びて喜びもひとしおだったに違いない。
この日、小田は世界ランキング2位のアルフィー・ヒューエット(25、イギリス)にストレート勝ち。負ければランキング入れ替わりだっただけに、高いモチベーションで挑んでいたのは言うまでもない。試合後、小田は「まるで夢のよう」と喜びを語っている。
自ら鼓舞しリズム作る
小田が“防衛”した世界ランキング1位は今年1月に引退した、車いすテニスのレジェンド、国枝慎吾さんから引き継いだもののひとつだ。
「国枝さんが世界ランキング1位のまま引退し、ヒューエット選手が1位になったとき、すぐに(同じ日本選手である)僕が取り返したいと思っていた」
6月の全仏オープンでグランドスラム初優勝を遂げ、史上最年少の17歳で世界ランキング1位に上り詰めた。実際に国枝引退後の穴を埋めた形だが、国枝さんの話を持ち出されるのはうれしい一方で複雑さもある。世間に知ってほしいのは「This is小田凱人」。グランドスラム初優勝後の帰国会見では、世界ランキング1位になり「結果を残さなければならない責任感はある。国枝さんがつくりあげてきたものもあるが、自分は新しい道をつくりあげられたら」と話し、「それだけの力が僕にはあると思う」と力を込めた。
頂点に上がるまで「世界一になる」というフレーズをずっと口にしてきた。なんでも言葉にするのが小田流の夢をかなえる方法でもある。