取材当時、巣には成長した3羽のヒナがおり、ピーピーとかわいらしい声を上げていた
取材当時、巣には成長した3羽のヒナがおり、ピーピーとかわいらしい声を上げていた

 日本有数の繁華街である銀座に長年、ツバメに愛されている場所がある。企業のオフィスなどが入る雑居ビル、第二厚生館ビルの駐車場。株式会社厚生館取締役の平沼渉太さんによると、2015年の夏ごろからツバメが巣を作り始めた。その後も、ほぼ毎年、春になるとやってきては子育てに勤しんでいるという。

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「ツバメが来るのを子どもたちも毎年心待ちにしています」と平沼さん。子どもたちは、ヒナが誤って落ちてきたときに人に踏まれたり、車に轢かれたりすることがないようにと、巣の下に段ボールを設置するなどして、毎年ツバメを気にかけてきたそう。その段ボールには、ツバメなどの絵を描き、「元気よくかえってきてね」とメッセージも書いた。

「子どもたちはツバメの成長を温かく見守ってくれていました。でも今年で最後かもしれないと思うと……」

 平沼さんは寂しそうな表情を浮かべた。

 実はこの第二厚生館ビル、今年からビルの建て替えを予定しているのだ。解体工事の連絡を張り出すと予想以上の反響があったという。ビルの前に車で乗り付けてツバメの様子を見に来る人や、夜中になかには長文の手紙を送って来る人がいた。

「皆さんがそんなに気にしているとは思わなかったので、とても驚きました。通勤や昼休憩で外に出た際にツバメを見守ってくれていたんですね」

平沼さんの子どもたちが作った段ボールの囲い 平沼さん提供 ※画像は一部加工しています
平沼さんの子どもたちが作った段ボールの囲い 平沼さん提供 ※画像は一部加工しています

 ツバメの子育てが終わる6月中旬から工事を開始予定だったが、今年やってきたツバメのヒナが巣立ちの時期を迎えた頃、思わぬことが起きる。

「もう一組ツバメのつがいがやってきて、巣作りを始めたんです。彼らが旅立ってからでないと工事はできないなと思って、工期を1カ月ほど後ろ倒ししました」

 建て替えが済んだ後もツバメたちが巣を作ることができるよう台を設置するなどして迎え入れる準備をしていく予定だという。

「また戻ってきてくれるとうれしいです。子どもたちも待ち望んでますから」

 しかし、ある疑問が浮かぶ。どうして人はここまでツバメを愛し、巣を守ろうとするのだろうか。記者も小さな頃から、「ツバメの巣に注意」「ツバメが子育てをしています」など、巣の存在を知らせる案内をよく見かけた。ツバメ以外の鳥でここまで人の生活に密着し、人に愛されている鳥はいないのではないだろうか。

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唐澤俊介

唐澤俊介

1994年、群馬県生まれ。慶應義塾大学法学部卒。朝日新聞盛岡総局、「週刊朝日」を経て、「AERAdot.」編集部に。二児の父。仕事に育児にとせわしく過ごしています。政治、経済、IT(AIなど)、スポーツ、芸能など、雑多に取材しています。写真は妻が作ってくれたゴリラストラップ。

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2千年に渡るツバメと人の関係