政治、経済を中心に評論活動をおこなっている社会思想家であり、有力な保守論客でもある佐伯啓思氏は安倍政権について、外交・安全保障も含めて「近年これだけ仕事をした政権はない」と一定の評価をする。新著『アベノミクスは何を殺したか 日本の知性13人との闘論』(朝日新聞出版)を上梓したアベノミクスの名付け親である原真人氏は、それに対し批判的な立場から論争形式でインタビューを仕掛ける。白熱したインタビュー内容の一部を同書から抜粋、再編集し、紹介する。
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今回は安倍晋三政権について、外交・安全保障も含めて「近年これだけ仕事をした政権はない」と一定の評価をしている佐伯に、アベノミクスに批判的な立場の私がいくつかの切り口から疑問点を指摘し、論争形式でインタビューを進めた。
グローバリズムや資本主義の歴史的な文脈のなかでアベノミクスはどう位置づけられるのか。経済大国だった日本が抱えてきた成長幻想を復古しようとするアベノミクスを、成長至上主義に批判的な佐伯はなぜ見放さないのか。思うところを存分に語ってもらおう。
――10年前、TPPについてインタビューさせていただきました。私は今もTPPは、やってよかったのではないかと思っていますが、そのときに佐伯さんが「グローバリズムの行き過ぎ」と指摘した問題意識については、昨今の国際情勢を見て、より強く共感するようになりました。19世紀後半から20世紀初頭にかけての第一次グローバリズムのあと、世界が二つの大戦に至ってしまった時代の空気と似たものが昨今、漂っていませんか。
佐伯:第2次大戦前の状況と現代との類似性は経済学者カール・ポランニー(オーストリア、1886~1964)が著書『大転換』で述べていることが参考になります。当時のすべての問題は自由放任的で自己調整的な市場を作り上げてしまったことによるのだ、と。いまでいう市場主義です。これによって格差や失業が生まれ、さまざまな社会的問題が起きるようになりました。