一方、雇用状況は良くなりました。デフレはいちおう脱却できています。いま起きているインフレは米欧ほどひどくはない。その点では成果がなかったとは言えません。しかし実体経済はよくなっていません。所得格差も開いています。その点ではマイナスは大きいです。つまり成功とはとても言えないが、失敗と断定するのも難しいという中途半端な結果です。

 一番の問題はアベノミクスのいわゆる第3の矢、成長戦略だと思います。結局、戦略的に成長経済を作ることはできなかった。実際、今日、いかなるイノベーション(技術革新)をやったって、日本経済は容易に成長できる状況にはありません。最近はAI(人工知能)やら、量子コンピューターやロボットやら、自動運転やら新しい技術が出てきた。そして宇宙開発。これらが米中の国家間競争の潮流になった。それを無視できないと思います。

 第3の矢というのは、経済成長を可能とするためにはイノベーションが不可欠だという考えです。すると、現実を考えれば、軍事まで含めた技術革新競争に乗らざるを得ない。それがうまくいかなかった。まして経済成長にも結びつかなかった。一方、第1の矢(大胆な金融緩和)と第2の矢(機動的な財政出動)は良かったかどうかはわかりませんが、安倍政権としてはやらないという選択肢はなかったのだろうと思います。

●原 真人(はら・まこと)
1961年長野県生まれ。早稲田大卒。日本経済新聞社を経て88年に朝日新聞社に入社。経済記者として財務省や経産省、日本銀行などの政策取材のほか、金融、エネルギーなどの民間取材も多数経験。経済社説を担当する論説委員を経て、現在は編集委員。著書に『経済ニュースの裏読み深読み』(朝日新聞出版)、『日本「一発屋」論─バブル・成長信仰・アベノミクス』(朝日新書)、『日本銀行「失敗の本質」』(小学館新書)がある。

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