佐伯:日本進出した米玩具小売りチェーン「トイザらス」の店にまで視察に行きました。当時、米国は「日本は国家が産業政策で経済に介入している」と批判してきましたが、米国は大統領と一緒にビッグ3トップがやって来たわけです。米国は自由競争を主張しながらも実際には明らかに国家資本主義です。国家戦略的経済と言ってもよいでしょう。クリントン政権は米国が世界市場を押さえるために金融革命とIT革命に乗り出しました。そのためにワシントン、シリコンバレー、ウォール街を結びつけたのです。これに成功し、金融と情報をつなげ、さらに金融工学を駆使しました。情報と金融の分野は完全に限界費用逓減の世界なので、米国はこの分野で優位にたてば、世界市場を押さえることができました。

 そのとき日本はと言えば、政府は何もやっていません。「構造改革をやれ。市場競争に委ねよ」と号令を掛けただけで、何の国家戦略も持たなかった。第1次安倍政権のあと、安倍さんに尋ねたことがあります。「小泉内閣のときには米国も欧州も中国も国家戦略があったが、日本に国家戦略はあったのか」と。すると安倍さんは「まったくなかった。失敗だった」と言っていました。日本だけが「政府は何もするな、民間にまかせろ、政府は規制を撤廃すればよい」というやり方でした。その後、リーマン・ショックが起きて、米国ではもっと大規模に政府がカネをばらまくようになった。日本ではその後、東日本大震災が起きましたが、民主党政権は経済政策ではほとんど見るべきものはありません。

 そして第2次安倍政権は、基本的に、しかも大規模に米国の真似をしたと言ってよいでしょう。米国からのサジェスチョン(示唆)があったのだと思います。政権発足後2年ほど経ったとき、ポール・クルーグマン(1953~)やジョセフ・スティグリッツ(1943~)といったノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者たちを官邸に呼んだでしょう。なぜ日本の経済政策の立案に対してわざわざ米国の経済学者を招くのか、と思いました。まあ、日本の経済学者の大半は、米国の受け売りですから仕方ないのかもしれません。でもこれが実態です。米国の経済学者の考え方を、安倍さんは全面的に受け入れたのです。

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日本に無責任さを蔓延させたもの