それを解決するために三つのシステムができあがりました。社会主義、ファシズム、米国ルーズベルト政権による公共政策(ニューディール政策)です。いいか悪いかは別にして、ファシズムを生みだしたのは本質的には自由競争市場が自立するという考え方、市場が自動的に自己調整的にシステムを作り出すという考え方です。それが社会を痛めつけることになる、そこに問題の源泉がある、とポランニーは指摘しました。これはその後もずっと続く問題で、最近のウクライナ危機の前提でもあります。

――社会に漂う不穏な空気もどこか戦前に似てきています。安倍晋三・元首相の殺害事件がまさにそうです。  

佐伯:不穏さ、ですね。戦争前に似ていると言う人も多い。だけど僕はやはり状況は少し違うと思う。戦争前夜とまでは思わない。戦前は、日本は国内の矛盾が引き金になって海外に軍事進出しました。今日、それはまず考えられません。それよりむしろ逆に、戦前の危機感のような強い政治的信条でテロを起こすだけの、政治的な強さがあるのかどうかと思うのです。     

――貧困や格差、自分が恵まれていないことの不条理への反発、行きどころがないという不安。そういうことを感じる人たちが世の中に増えているのは確かです。これは大変まずい状況ではないでしょうか。

佐伯:もちろんそうです。僕がちょっと違うと言ったのは、こういうことです。戦前は日本全体が閉塞感のなかに追い込まれ、そのなかでテロが起きました。そして、そういう社会不安を背景に、日本は大陸に侵攻していった。しかし、いま日本が侵略戦争を起こす可能性などゼロです。逆に日本が攻撃される可能性の方があります。ただそうなれば、それに対して国内からたいへんな反発が出るでしょう。政府は何をしてるんだ、と。そういう意味で不穏な状態であるのはまちがいありません。とはいえ、それは戦前のような日本からの侵略ではないでしょう。

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