それから安倍元首相殺害事件の特徴は、安倍さんを狙った犯人の政治的意図は皆無なのに、結局は標的が安倍さんにいってしまったという点にあって、非常に妙なことでした。もちろん、後になって旧統一教会と自民党議員のつながりが論議されますが、それが山上徹也容疑者の認識でも目的でもなかった。本来の目的と関係がないのに、妙なところにスライドして狙いが政界トップにまで行ってしまった。この奇妙さの方が何か不気味な印象を与えます。しかも、彼は判断能力の欠如した人物どころか、きわめて周到に準備している。この辻褄の合わなさの方が現代的な居心地の悪さを感じさせます。
■“失敗だと断定できない”アベノミクス
――佐伯さんは、現代は「世界中が資本主義化している」と指摘しています。その権化のような思想が「アベノミクス」だったのではないですか。マネー中心であり、カネさえばらまけばうまくいく、という考え方です。
佐伯:それはむしろアベノミクスに対する過大評価でしょう。資本主義を定義すれば、基本的にはお金を運用し、資本を拡大して新たなフロンティアをひらくことです。戦後の先進国はずっとそうです。冷戦後のグローバリズムで一気に世界の流れとなりました。しかもそれは、ただの資本主義ではありません。国家資本主義です。国家が主導し、戦略にもとづいてお金の流れを誘導し、財政・金融政策を進める。世界という大きなマーケットが生まれ、それを誰が奪うかという非常に激しい競争が1980年代の米レーガン政権時代から始まりました。90年代にはブッシュ(父)政権、クリントン政権が日本に構造改革や市場開放を要求してきました。これだって米国が国家資本主義によって、米国のマーケットを日本にまで拡大しようとした試みです。
――ブッシュ(父)大統領が自動車大手の米ビッグ3のトップを引き連れて来日し、日本に米国製品を輸入するよう求めてきたこともありました。