しかしこの元県議は、

「買収だなんてとんでもないと思っていました。しかし、ガサ入れ(家宅捜索)まで食らって次々と同僚議員も事情を聴かれ、私も逮捕されかねないと感じました。検事は『起訴はしないように考える』『悪いようにはしない』と言い、それで仕方なく供述調書に署名をしました。『検察ストーリー』というものがあるというのは取り調べ前からわかっていましたが、実際にガサを受け、調べで検事から切り出されるとストーリーに乗るしかなかった」

 と振り返り、こう続けた。

「押収されたメールの中に、安倍晋三首相(当時)の秘書が案里氏支援で応援に、という内容があったんです。それを引き合いに、裁判で安倍首相との関係が出るかも、と検事は示唆する。そりゃプレッシャーになりますよ」

前回の参院選では、河井克行元法相の妻、案里氏が立候補。当時の安倍晋三首相も応援に駆けつけた。翌年に夫妻は逮捕された=2019年7月14日、広島市
前回の参院選では、河井克行元法相の妻、案里氏が立候補。当時の安倍晋三首相も応援に駆けつけた。翌年に夫妻は逮捕された=2019年7月14日、広島市

 そのメールでは、支援者から「安倍首相の秘書とかいう人が来てポスターを掲示してくれとのことだった」とあり、元県議は「応援していますので貼ってください」と応じていた。

 特捜部は「安倍首相」の名を出して、有利な供述調書を作成しようとしていたのだ。

 元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士は、

「取り調べは全面的に録音録画をすべきなのに、していないからこういう利益誘導、検察ストーリーのような取り調べになる。厚生労働省元局長の村木厚子さんの冤罪(えんざい)事件をはじめ、これまでの反省がまったくないことが明らかだ」

 と指摘する。

 斎藤健法相は7月21日の会見で「一般論」として、

「取り調べで任意性を失わせるような利益誘導は、断じてあってはならない」

 と述べた。

 元市議の裁判は27日に予定されている。弁護士によると、当然「無罪」を主張する方針だという。

 (AERA dot.編集部 今西憲之)

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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