しかしこの元県議は、
「買収だなんてとんでもないと思っていました。しかし、ガサ入れ(家宅捜索)まで食らって次々と同僚議員も事情を聴かれ、私も逮捕されかねないと感じました。検事は『起訴はしないように考える』『悪いようにはしない』と言い、それで仕方なく供述調書に署名をしました。『検察ストーリー』というものがあるというのは取り調べ前からわかっていましたが、実際にガサを受け、調べで検事から切り出されるとストーリーに乗るしかなかった」
と振り返り、こう続けた。
「押収されたメールの中に、安倍晋三首相(当時)の秘書が案里氏支援で応援に、という内容があったんです。それを引き合いに、裁判で安倍首相との関係が出るかも、と検事は示唆する。そりゃプレッシャーになりますよ」
そのメールでは、支援者から「安倍首相の秘書とかいう人が来てポスターを掲示してくれとのことだった」とあり、元県議は「応援していますので貼ってください」と応じていた。
特捜部は「安倍首相」の名を出して、有利な供述調書を作成しようとしていたのだ。
元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士は、
「取り調べは全面的に録音録画をすべきなのに、していないからこういう利益誘導、検察ストーリーのような取り調べになる。厚生労働省元局長の村木厚子さんの冤罪(えんざい)事件をはじめ、これまでの反省がまったくないことが明らかだ」
と指摘する。
斎藤健法相は7月21日の会見で「一般論」として、
「取り調べで任意性を失わせるような利益誘導は、断じてあってはならない」
と述べた。
元市議の裁判は27日に予定されている。弁護士によると、当然「無罪」を主張する方針だという。
(AERA dot.編集部 今西憲之)