「キャリアアップ転籍」を導入している資生堂の特例子会社「花椿ファクトリー」。親会社の生産設備で働く障害者が着実に増えている(写真:花椿ファクトリー提供)
「キャリアアップ転籍」を導入している資生堂の特例子会社「花椿ファクトリー」。親会社の生産設備で働く障害者が着実に増えている(写真:花椿ファクトリー提供)
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 障害者雇用促進法の改正により、障害者の雇用率が現行の2.3%から2.7%に段階的に引き上げることが決まった。これを受けて、法定雇用率を達成のため、自社が運営する「農園」などで障害者を働かせるケースが増えている。企業と障害者を切り離し、障害者の能力や適性に踏まえない形式的な雇用が問題視されるなか、さまざまな模索を図る企業を紹介する。AERA 2023年7月24日号の記事から。

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 障害者の働き手を親会社の業務に登用するシステムで実績を重ねているのが、資生堂の特例子会社「花椿ファクトリー」だ。渡辺浩崇社長は言う。

「障害者本人や周囲の人たちは就労を『ゴール』と捉え、経験がないことを理由に『今のままでいい』と考えがちですが、会社がバックアップし、チャレンジする機会を用意することで、本人も気づかなかった適性や成長の可能性を発見して自己肯定感を高めることができます」

 同社が導入している「キャリアアップ転籍」は、企業内で働くベースができた障害者を親会社にいきなり転籍させるのではなく、受け入れ先の職場環境や業務内容、個々の特性、配慮事項などを十分吟味し、数回の実習を経て、マッチングを確認した上で判断する。転籍後も定着支援を行い、福祉分野の支援機関のフォローも随時得られる体制を整備している。

 20年以降、静岡県の掛川工場で2人、大阪府の茨木工場で3人が転籍勤務を続けている。成功事例を重ねれば後輩社員の目標にもなる。知的障害のある社員が作業しやすいようマニュアル化や標準化を進めた結果、元からいた社員もミスが減るなど相乗効果も生まれた、と渡辺さんは成果を強調する。

 通勤がネックで働けない障害者は少なくない。テレワーク勤務に特化した障害者雇用を支援する会社から提案を受け、障害者の在宅勤務制度を20年から導入したのが「東京建物」だ。

 現在約20人の障害者雇用のうち5人が在宅勤務という。カギになるのは、障害者の社員と会社の間に立つ「メンター」の存在だと話すのは、人事部グループリーダーの今井靖さんだ。

「福祉のプロとして障害者に寄り添うだけでなく、ビジネスのルールを理解し、企業と障害者の中間的立場で対応していただけることが、制度の維持に不可欠だと実感しています」

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