企業から製作依頼をもらえるかは、作業専門官をはじめとした職員の営業努力にかかっている。情報管理が徹底されている、民間と比べて工賃が安い、など刑務所ならではのメリットを売りにして、受注を取りつける。なかには、「受刑者の更生に役立つなら」と、積極的に発注してくれる企業もあるという。
しかし、「うちの製品は刑務所で作っています」とアピールする企業の声は、ほとんど聞こえてこない。その背景について、浜井教授はこう指摘する。
「日本では、刑務所製=犯罪者が作ったものというネガティブなイメージになりますが、たとえばイタリアでは、高級食材を扱う店の一番目立つ場所に、刑務所で焙煎(ばいせん)したコーヒーが置いてあったりする。それを購入すること自体が社会貢献であり、ある種のステータスになるんです。市民としての意識が、日本とはまったく違います」
そして、社会の不寛容さは、罪を犯した人の更生の機会を奪う。浜井教授が続ける。
「せっかく釈放されても、職につけずに刑務所に戻ってくる人は少なくありません。刑務所では、きちんと刑務作業に打ち込めば、周囲から一目置かれる。ブルースティックのような人気商品や、もはや刑務所の中でしか技術が継承されていない伝統工芸品を作っていた人であればなおのこと、自分の仕事にプライドもあります。結局人は、自分を必要としてくれるところを“居場所”にするんです」
■「刑務作業があってよかった」まさかの理由
刑務作業のあり方自体にも、日本は課題を抱えている。浜井教授は、法務省に在籍していた当時、同僚が受刑者に対して行ったアンケートを見て、現実を目の当たりにしたという。
「8割の受刑者は、『刑務作業があってよかった』と肯定的でしたが、その理由の大半は、『何かに集中していると時間が早く過ぎるから』というもの。ポジティブに『社会復帰に役立つから』と答えた人は、わずか15%ほどでした。日本における刑務作業は、受刑者の社会復帰のためというよりは、刑罰の一環という意識が根強い。なので、仕事がないときでも、『懲役刑である以上、何かしら作業をさせないといけない』と、ただ工場に集めて黙って座っていてもらうという運用もあったと聞いています」