『シン・男がつらいよ――右肩下がりの時代の男性受難』
朝日新書より発売中
「あぁー」「はぁー」「ふぅー」――。言葉とも感嘆詞ともとれる、こんな男性の哀愁漂う深いため息を何千回、いや何万回、耳にしたことだろう。取材を始めた当時、男というものがこれほどまでに沈黙を好み、また突如として怒りや悲しみ、不安などネガティブな感情を露わにする生き物とは思いもよらなかった。
二十数年前、新聞記者をしていた頃、社会で優位に立ち、強いと思い込んでいた男性が、職場や家庭でさまざまな悩みを抱え、誰にも打ち明けられずに苦悩している姿を目の当たりにし、激しく心揺さぶられた。男性の生きづらさの本質を探究する道程の始まりだった。
支配されている男たちが増えている――。男性全てが支配する側にいるのではない。本書のメインテーマである。
この四半世紀にもわたって実質賃金の下落傾向が続くうえ、出世の象徴でもある管理職ポストは減る一方だ。近年はハラスメントの訴えに怯えるなど、男性を取り巻く環境はますます深刻化している。「男らしさ」のジェンダー(性)規範を実現できないばかりか、特に女性活躍推進法施行以降、ポジティブ・アクション(積極的差別是正措置)の不適切な運用により、管理職登用などで女性に活躍の場を奪われたと捉え、苦しみを募らせる男性も増えている。
男たちの多くは、女性や権威を保持する少数派の男性らから支配されている。と同時に、自らに「男らしさ」の枷をかけ、己の中にある「男はこうあらねばならない」という性規範に支配されている。
タイトルの『シン・男がつらいよ』には、そんな男たちの複雑で重層的な心理・思考と社会構造の問題を、従来にない新たな視点で再考したいという意味を込めた。最初の著書である『男はつらいらしい』(2007年刊)から早16年、男性の生きづらさを追い続けてきた己の軌跡を顧みながらの作業でもあった。