本書では、支配される側の男性に焦点を合わせ、対女性、男性間の権力構造、母親の呪縛、親世代の価値観の押しつけ――という切り口で、最長で二十数年に及ぶ継続取材事例を取り上げ、その社会的、心理的要因を考察している。取材者総数は、男性だけでも1500人近くに上る。多数のケースの長時間に及ぶ「語り」のデータを分析してテーマごとに分類し、代表的な事例を紹介している。

 後輩女性社員が経験を積み、能力を発揮できるよう尽力してきたメーカー勤務の40歳の男性は、功を焦って上司が強行した行き過ぎた女性優遇のあおりを受けて左遷され、「『女性活躍』の名のもとに強行された“男性差別”だ」と涙ながらに訴えた。

 建設会社で部長まで務めた61歳の男性は、定年後の再雇用で、かつての部下から陰湿ないじめを受け、同期入社の役員からは蔑まれ、「会社で権力を失い、奈落の底に突き落とされた」と憤りと悔しさで声を震わせた。

 母親に嘘の病で振り回されても、「この世でたった一人、自分の存在を認めてくれる母に必要とされることが生きる支え」と苦しい胸の内を明かしたのは、商社勤務の50歳の男性。出世競争に敗れ、家庭でも居場所をなくし、自己を見失っていた時期の出来事だった。

 就職活動で、根性や強靭な肉体など旧来の「男らしさ」を求められる「就活セクシズム」に遭った男子大学生は、社会人になるというのは「おやじ世代の古い価値観を無理やり背負わされることなのか」と焦燥感を吐露した。

 男性にも、ジェンダー平等が必要である。女性は男性優位の社会構造のもとで抑圧されてきたが、男性も女性や他の男性に対して優位に立ち、強く、権威を保持しなければならないという社会的重圧を受け、長時間労働や私生活の犠牲を強いられ、性規範からの逸脱への厳しい世間の目にさらされてきた。

 組織としての数値目標を達成するために“数合わせ”で女性を管理職に登用するなど、過剰な女性優遇が、男性に対する差別に発展しかねないリスクがあることも看過できない問題だ。

 育児など家庭でのケア役割負担の大きさや、経済的自立の困難といった女性問題は、男性との関係性において生じている。男性が「男らしさ」規範から解放され、生きづらさが軽減されれば、女性も働きやすく、生きやすくなる。

 本書に登場するのは、どこにでもいる市井の人々である。あなたの上司・同僚・部下であり、夫・息子・父であり、あなた自身であるかもしれない。欧米に大きく立ち遅れている男性のためのジェンダー平等政策を、日本でどう進めていくべきかについても提案している。真のジェンダー平等実現に向け、多角的に考える一助になれば幸いである。