■転売防止の協定結ぶ
新作が発売された6月、各地で大行列ができた。20パックで5800円のボックスが、フリマアプリの「メルカリ」ではおよそ2万円で転売された。カードの転売、高額化自体は問題ないのだろうか。高額転売に詳しい弁護士の福井健策さんは言う。
「転売目的で公式サイトから購入したなら規約違反にあたり、また詐欺罪にあたる可能性もあります。カードショップは、犯罪があったと知りながら買い取ると、盗品等関与罪の可能性があります」
公式通販である「ポケモンセンターオンライン」は、利用規約で「営利目的で第三者に転売する行為」を禁止している。福井さんは買い占め、高額化によるトラブルをこう分析している。
「まず子どものプレーヤーなどがカードを手に入れられません。また、投機的な売買に手を出した人が借金を負い、生活が破壊されるリスクもあります。高額化で得た利益の脱税やカードの窃盗、詐欺などの犯罪が増えることも問題です。メーカー、カードショップ、フリマサイトが連携して手を打つべきだと思います」
メーカーである「ポケモン」は、「メルカリ」と不正な転売を防ぐための協定を結んだ。さらに、客に確実に届けられるように、受注生産をした。
カードショップも対策に乗り出している。晴れる屋2は新品も販売しているが、子どもたちの手に行き渡るように、新品のパックを売るのは15歳以下に限っている。渡辺店長は言う。
「高額で取引される傾向にあるのは未開封のボックスです。新作発売時には事前に抽選して限られた人数にボックスを販売しています」
■原点を愚直に大事に
渡辺店長は残念に思っている。
「遊ぶためのカード自体の金額はそれほど高くありませんがその情報が広がりきらず、未開封ボックスや一部のカードの高騰により、詳しくない方々からネガティブな印象を持たれてしまうことは遺憾です」
実は今もポケカを始めるのには500円台から2千円程度しかかからない。60枚のデッキ(対戦に使うカード)がセット販売されているのだ。
ポケカは日本初の本格的なトレーディングカードゲームと言われている。ポケカブームの立役者である香山哲さん(当時の製造販売元・メディアファクトリー元常務取締役)は言う。
「普通は原作をベースにメーカーが商品化しますが、ポケモンカードはたとえるなら原作者がカードゲームの開発もしているようなものです。ですので、カードの隅々までポケモンの生みの親の世界観が行き渡っています。今、私は関わっていませんが、今の販売元である『ポケモン』はポケモン以外のカードを作っていません。ポケモンという原点を愚直に大事にしているからこそ、当時ポケモンカードが好きだった子どもたちが大人になって帰ってきたとき、再び楽しめるゲームになっていると思います」
純粋にカードを求める人たちの手元に届いてほしい関係者の思いは熱い。(編集部・井上有紀子)
※AERA 2023年7月17日号