生徒が授業中に塾の宿題をしていても、注意はしない。教員側は授業を聞きたくなるように努力するし、「授業と塾を使いこなした先輩」の話をしたりもする。だが、それをふまえてどう行動するかは、生徒にゆだねている。
「人間は強制してしまうと、うまくいかなかったときに『そのせいで落ちた』と思いがちなんです。言い訳をつくるための指導はしないようにと心がけています」
「ブラック校則」という言葉が広がりはじめたのは、2017年頃。理不尽だったり、なぜそうなっているのかが曖昧だったり。教員も親もルールがあるほうが指導しやすいのは事実だが、思考停止や管理型の教育につながりやすい。
渋幕と同じく、“自由な進学校”が関西にもある。
兵庫県の灘中学校・高等学校では、明文化された校則がない。だから、生徒を叱るときは教員も頭を使う。「校則違反」で押し通せないため、注意するときは何がいけないのか説得する必要がある。
「一律で禁じれば楽になりますが、校則を守る側と守らせる側の構図を作りたくないんです」
と校長の海保雅一さんは話す。生徒会活動や部活動が盛んな灘では、子どもたちが主体となってさまざまな行事に取り組んでいく。部室にこもったり、スポーツに夢中になったりと、その熱中ぶりに、勉強は大丈夫なのかと心配する保護者もいるという。
「そんなときは、それが大事なんですとお伝えします。勉強をゼロにするのはだめですが、部活などに比重を置くのは悪いことではありません。長い目で見てくださいね、とお願いしています」
中高一貫校には、中1と中2、中3と高1、高2と高3の2年ごとのリズムがある。学校に慣れる最初の2年と受験にシフトする最後の2年。真ん中の2年間は“中だるみ”の期間になりやすいとも言われている。それは進学校の灘も同じ。
だが、海保校長はこの時期もポジティブにとらえている。
「中だるみというと悪く聞こえますが、人間には緊張と緩和が必要。やり抜く力や非認知能力を伸ばすのに絶好のチャンスなんです」
教員は課外活動や文化祭といった舞台を用意するだけ。あとは黒衣に徹する。
「主役を演じるのは生徒たち。相談されれば答えるし、危険が生じそうなときは介入します。でも、基本はほったらかしです」
渋幕と灘に共通するのは、生徒を信頼していること。求められるまで手助けはせず、見守ることで、生徒が主体性や回復力を養っていく。(編集部・福井しほ)
※AERA 2023年7月17日号より抜粋