先回りして子どもを手助けするのは親の役割ではあるが、あまりにも過保護すぎると失敗経験がない分、大人になってから苦労することになる。そうはいっても、失敗をさせてしまうのは、かわいそうだと感じるのが親心だろう。では、子どもが「上手に失敗」し、逆境力を身につけるにはどうすればいいのか。渋谷教育学園幕張中学校・高等学校と灘中学校・高等学校の教育方針から探った。AERA 2023年7月17日号の記事を紹介する。
* * *
子どもには逆境に強く、しなやかに育ってほしい。多くの親はきっとそう願うだろう。だが、痛い思いもしてほしくない。「上手に失敗」して、逆境力を養う方法はあるのだろうか。
千葉県にある渋谷教育学園幕張中学校・高等学校は、子どもの自立心を刺激する仕組みをいたるところにしかけている。
「自調自考」をかかげる同校では、細かな校則はなし。授業の開始や終わりを告げるチャイムもなし。教員が手取り足取り教えるのではなく、生徒が自分で考えることをよしとする。
授業の時間が近づけば、生徒は自分たちの席につく。なかには教科書の準備が間に合わず、慌ててロッカーに取りに行く生徒もいる。
だが、教員はお構いなしで授業を始める。怒ったり、その生徒を待ったりはしない。
同校の田村聡明(としあき)校長はこう説明する。
「なぜなら、準備をしている他の生徒の邪魔をするのはよくない。最初から授業を受けられないのはかわいそうだけど、そこは準備不足だという解釈です」
ただし、生徒やクラスの雰囲気を見て、と付け加える。
「事前に、『そういうふうにやっていくから、準備をしてきちんと待っていてください』と生徒に伝えるという作業も大事です。意地悪されたんじゃないかといった勘違いが起きれば、不信感につながってしまう。丁寧にやっていく必要があります」
人間だから、できるときもあれば、できないときもある。それは大人も子どもも同じ。小さな失敗やミスをするたび、自分で考え修正していくことが、子どもの成長にもつながっていく。