渋谷教育学園幕張中学校・高等学校では、6年間を通して学園長による講話の時間がある。自由や創造力などテーマは多岐にわたる(写真:渋谷教育学園幕張中学校・高等学校提供)
渋谷教育学園幕張中学校・高等学校では、6年間を通して学園長による講話の時間がある。自由や創造力などテーマは多岐にわたる(写真:渋谷教育学園幕張中学校・高等学校提供)
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 先回りして子どもを手助けするのは親の役割ではあるが、あまりにも過保護すぎると失敗経験がない分、大人になってから苦労することになる。そうはいっても、失敗をさせてしまうのは、かわいそうだと感じるのが親心だろう。では、子どもが「上手に失敗」し、逆境力を身につけるにはどうすればいいのか。渋谷教育学園幕張中学校・高等学校と灘中学校・高等学校の教育方針から探った。AERA 2023年7月17日号の記事を紹介する。


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 子どもには逆境に強く、しなやかに育ってほしい。多くの親はきっとそう願うだろう。だが、痛い思いもしてほしくない。「上手に失敗」して、逆境力を養う方法はあるのだろうか。


 千葉県にある渋谷教育学園幕張中学校・高等学校は、子どもの自立心を刺激する仕組みをいたるところにしかけている。


「自調自考」をかかげる同校では、細かな校則はなし。授業の開始や終わりを告げるチャイムもなし。教員が手取り足取り教えるのではなく、生徒が自分で考えることをよしとする。


 授業の時間が近づけば、生徒は自分たちの席につく。なかには教科書の準備が間に合わず、慌ててロッカーに取りに行く生徒もいる。


 だが、教員はお構いなしで授業を始める。怒ったり、その生徒を待ったりはしない。


 同校の田村聡明(としあき)校長はこう説明する。


「なぜなら、準備をしている他の生徒の邪魔をするのはよくない。最初から授業を受けられないのはかわいそうだけど、そこは準備不足だという解釈です」


 ただし、生徒やクラスの雰囲気を見て、と付け加える。


「事前に、『そういうふうにやっていくから、準備をしてきちんと待っていてください』と生徒に伝えるという作業も大事です。意地悪されたんじゃないかといった勘違いが起きれば、不信感につながってしまう。丁寧にやっていく必要があります」


 人間だから、できるときもあれば、できないときもある。それは大人も子どもも同じ。小さな失敗やミスをするたび、自分で考え修正していくことが、子どもの成長にもつながっていく。

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