山里亮太(やまさと・りょうた)/1977年生まれ、千葉県出身。2人兄弟の弟。お笑いコンビ「南海キャンディーズ」のツッコミ担当。著書『天才はあきらめた』が原案となり今春ドラマ化した(撮影/写真映像部・松永卓也)
山里亮太(やまさと・りょうた)/1977年生まれ、千葉県出身。2人兄弟の弟。お笑いコンビ「南海キャンディーズ」のツッコミ担当。著書『天才はあきらめた』が原案となり今春ドラマ化した(撮影/写真映像部・松永卓也)

「片山さんに言われたのが、周りの人から『上がりだな』って言われるのが一番危険な状態だということ。ゴールを迎えて、ウィニングランみたいになると全力で走れなくなるじゃないですか。てんぐになると努力しないでいい理由の数が尋常じゃなく増えて、受ける傷も浅くなる」


 家に帰れば人気俳優の妻とかわいい子どもがいる。周りからは、上り詰めた人気芸人と評価される。


「みんなに絶対そう言われるんです。でも、運の上にしか成り立っていない。自信がないとは違うんです。いつでも崩れ落ちるって不安もあります」


■芸人としての“突然死”


 実際、朝の番組でも反省の繰り返しだという。日々目まぐるしく起きるニュースには、楽しいものもあればつらいものもある。番組でのコメントが数十分もすれば、ネットニュースで報じられる時代。一度口に出した言葉はもう取り戻せない。


「後悔は山ほどあります。感情だけが先走っちゃったな、ダメだったなって。そういうときは、どうしてダメだったのかを考え尽くす。この本を読んでおけばよかった、誰かに聞いておけばよかったって反省は、次に同じシチュエーションがきたときにホームランを打つまで癒えない傷なんです。でも、ただぐじぐじ考える時間はもったいないけど、次への対策に入っているとしたら、そのミスをすごくポジティブにとらえられる。努力して、自分を一気に成長させてくれる時間をつくれたのは、今日ミスした自分のおかげですから」


 元来、サボりの人間を自認する。放っておけば、すぐ努力しなくなる。今日読むべき本を後回しにして、時間を浪費してしまう。そうするうちにレギュラー番組が減っていき、芸人としての“突然死”が訪れる。想像するだけで、恐怖でゾッとする。


「『こうすると死ぬ』って、めちゃくちゃネガティブに聞こえるじゃないですか。でも、それさえしなきゃ死なないんで。してはいけないことが誰よりも明確にわかっているんです。努力賞を取り続ければ死ぬことはないっていう、僕のような凡人にはありがたい道の設定だなって思います」


 ネガティブすぎて行動できない人が一歩を踏み出すには、どうすればいいのだろうか。


「最悪の事態を想像して身動きがとれないのは、思いやりの象徴だと思う。まずは自分よりも人のことを考えられている自分はすごいんだと認めてあげる。もう一歩進化させて、『これをしたら嫌じゃないかな』を『それが嫌な人って、どうされたらいいのかな』とクエスチョンを投げて、その答えを探すために時間を使う。それを重ねていけば、『あなたのおかげで』っていう人が出てくるんじゃないかな、と繊細な人を見ていていつも思うんです」


 その言葉には、ネガティブを武器にした人の優しさがある。(編集部・福井しほ)

AERA 2023年7月17日号

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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