また、利上げを続けてきたことで米国の景気減速感が年後半にかけて次第に高まっていく恐れがあることも、今後ドル高の圧力が和らぐ見方を後押ししている。
クレディ・アグリコル銀行の資本市場本部シニア・アドバイザー、斎藤裕司さんは言う。
「少し前までは市場関係者の間で政府・日銀が介入に踏み切るのは難しいとの意見が多かったように思います。ところが、相場の過熱感を示す指標はドルが買われ過ぎであることを示したり、円買い介入について米イエレン財務長官が『日本の当局とも連絡を取り合っている』などと伝えられたりしたこともあって、現実味を帯びてきています」
斎藤さんは、日銀が早いタイミングでYCCの修正に踏み切るのも難しいとみている。今年12月には現在よりも円高・ドル安水準の1ドル=138円で推移すると予想する。
斎藤さんが指摘するように、市場関係者の間では、円安が一定の水準に近付くと政府・日銀が為替介入を実施するのではないかという警戒感が高まる。円安の動きが強まった6月下旬には、為替政策の権限を持つ鈴木俊一財務相や財務省の神田真人財務官らが「行きすぎた動きがあれば適切に対応する」などと述べ、市場を牽制した。
今回の局面で為替介入の可能性はあるか。元財務官の榊原英資さんに尋ねたところ「あり得ると思う」と答えた。榊原さんは続ける。
「円安が進み過ぎたり、何もしないとさらに円安が進むと考えたりしたら、(実施すると)判断するでしょう。担当者はいま危機感を持っているのではないでしょうか」
現在はインド経済研究所の理事長を務める榊原さんは、1990年代後半に大蔵省(現財務省)の財務官を務め、円安を止めるための為替介入を手がけた。
ただし、榊原さんは、当時の経験から「円買い介入には難しい面がある」と指摘する。
「円買い介入は、外貨準備として蓄えているドルを売って円を買う必要があります。外貨準備は際限なく使えるものではない。そのため強烈なことはできません。当時も、円買い介入で外貨準備の10分の1くらいを使ってしまった。『もうあまりできないな』と(限界を)感じた記憶があります」