J・D・サリンジャー『キャッチャー・イン・ザ・ライ』の主人公ホールデンに自分を重ねたり、湖面を見て北米先住民の詩を思い出したりと、自分を起点に本の世界と自在につながる。詩の場合、こんな感覚があるという。
「詩って短いし、頭の中に残りやすいので、どんな風景にも持ち運びがしやすい。頭に詩を入れて持ち運んでいる状態で、いろんな風景を見たり経験したりしています」
時系列で進むエッセイは、書きながら大阿久さん自身がどんどん変わっていったのが、内容の変化から伝わる。終盤は22年春に書かれたもので、本を書き終えた頃、大学で対面授業が本格的に再開された。
そして今、社会生活を取り戻すなかで、共通点だけではなく「違いの方に目を向ける」ようになったという。
「共通点がどのように共通しているかは、違いを知っていないと正確には見えてこない。違いと共通点の両方を見つけることによって、自分自身に対する理解も深まって、他者や世界に対する理解も広がっていくと思います」
本人の成長とともに、「じたばた」も進化する。
「私は基本的にずっとじたばたしています。もし次に同じ言葉を使って文章を書くとしたら、『じたばたをどう解体するか』という話になると思います。最近は自分の人生を通じてどのようにして世界にいい影響を与えられるか、格差や差別がない社会にするにはどうしたらいいかを考えています」
(ライター・桝郷春美)
※AERA 2023年7月10日号