暦の発明は非常に古く、約4万年前のマンモスの牙に刻んだものは月の満ち欠けの記録であるとする説や、約1万年前の石に刻まれたポケットサイズの暦など、確定されてはいないものの、数万年の昔から時間の可視化が試みられてきたのは事実だ。

 時の経過を主観の世界の産物から「客観的で共有可能な情報」にするための工夫は、世界各地で行われてきた。現代でも時間の単位とされている60進法は、シュメール・バビロニア文明に由来する。また、エジプトの「王家の谷」では、紀元前13世紀にさかのぼると考えられる最古の日時計が、最近発掘されている。

 太陽が出ている時にしか使えない日時計から、夜間や天候に左右されないもっと汎用性がある時計を求めるのは、自然の流れだった。古代ローマでは、エジプトから持ち込まれた日時計や水時計は広く普及した。しかし、このころはまだ、一般に普及したとは言い難い状況だった。

■「感性」ではなく「慣性」で測定する

 季節の移ろいや昼と夜の繰り返しなど、周期的な出来事を元に暦が作られた。しかし次第に、人類は「より短い時間」を正確に知りたいと思うようになる。最も身近で短時間に繰り返す信号として、現在の秒針の役割を担うものとして、重宝されてきたのが、脈拍である。

 しかし、人体での計測にはやはり限界があった。そこで登場したのが、振り子である。揺れるシャンデリアを見て「振り子の等時性」を思いついたガリレオの伝説など、現代でも、振り子に関する印象的な逸話が残っている。これらは、振り子に見られる振動の等時性の発見が、当時いかに画期的であったかということを物語っている。

 この振り子の等時性の発見は、さまざまな分野で応用された。たとえば、音楽の演奏速度の基準となるメトロノームの原型は17世紀の終わりごろに作られた。それまでは、作曲者が楽譜に書き込んだ「アダージョ(緩やかな速度で)」や「アレグロビバーチェ(快活に速く)」といった指示を指揮者や演奏者が独自に解釈して演奏されていた。まさに文字通り、一期一会の演奏である。しかしメトロノームの登場により、音楽演奏の再現性は飛躍的に高まったといわれている。

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“1秒”の定義とは何か?