14世紀のイタリアでは、経済活動の発展と共に機械式時計が普及した。そして、人々は時計と共に生活するようになったのである。とはいえ、1日あたり15分程度の誤差は生じ、まだまだ精度は高くなかった。その後17世紀後半には1日当たりのズレが15秒ほどになり、18世紀半ばには1日あたりの誤差が3秒という高精度な小型の時計が開発され、航海に不可欠なアイテムとなった。

 科学の歴史では、従来の技術革新がピークに達したとき、それにとって代わる新しい芽が出てくることがよくある。それは「時間計測」の歴史でも、同じだった。

 1921年に、イギリスのウィリアム・ショートが開発した電気機械式振り子時計によって、1年間で生じる誤差も約1秒程度となった。

■原子の周期を用いて、時間を測る

 1927年、アメリカのベル研究所で、ウォーレン・マリソンとジョセフ・ホートンが、世界初のクォーツ時計をつくった。

 クォーツ(水晶)には音叉のように働く性質がある。電流が水晶を通過するときに、水晶にひずみが生じ、非常に規則的な速度で変形をする。この変形で発生する小さな電流を、信号として使うことができるのだ。クォーツ時計は、構造的に磁気や振動など外部からの悪影響を受けにくく、コンパクトなうえにメンテナンスがほとんど必要性ない。このような特性からも、時間を測るときには、クォーツ時計が用いられるようになっていった。

 さて、「“1秒”の定義とは何か?」と聞かれたら、あなたはなんと答えるだろうか。長い間信じられていたのは、地球の自転1回分を「1日」としたうえで、その8万6400分の1という答えである。しかし、これに異を唱えたのが1956年の国際度量衡総会だった。地球の自転速度は、変密にはわずかに変動している。そこで、太陽を中心とした地球の公転周期から「秒」を割り出すことが採択された。

 このときから、単位の基準は人工物から理論へと拠り所を移していった。

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時間と空間は別物ではない?