※写真はイメージです(Getty Images)
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 毎日当たり前のように使っている測定単位。人と約束をするとき、時間を決めない人はほとんどいないだろう。一日の中で時計を見ない日はおそらくほとんどないだろう。実は、世界の時計は「秒」という単位を基準にして動いている。目に見えない時間を、人類はどのように可視化し、「秒」という単位にたどり着いたのか。その過程を、『測る世界史 「世界の基準」となった7つの単位の物語』(朝日新聞出版刊)を抜粋、再編集し、解説する。

【写真】時間を可視化するものといえば

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■「時間」を可視化しようとした人類の叡智

 原子時計をご存じだろうか。1971年、ジョセフ・ハフェルとリチャード・キーティングは、巨大なこの時計を持って飛行機に乗り込んだ。その目的は、アインシュタインの相対性理論の実証実験のためであった。

 特殊相対性理論では「速く動く物体ほど時間がゆっくり進む」という仮説が立てられ、一方で一般相対性理論では「重力が強い場所ほど時間はゆっくり進む」という予測がされていた。飛行機に持ち込まれた原子時計によって実験されたのは、この二つの仮説を一挙に実証するためであった。

 この日から、時間は「人間の手の中」から「宇宙理論」へと変化していったのである。

 科学とは関係のないところで最も大きな影響を持つ単位こそが、「時間」だ。あらゆる面で常に我々に付きまとう「時間」だが、その定義を端的に伝えることには想像を絶する困難がある。

「時間とは何か?」という問いに、4世紀、西ローマ帝国時代の神学者であり哲学者のアウグスティヌスは「誰にも問われなければ、この答えはわかるが、問われて説明しようとすると、答えがわからない」と答えたという。1965年にノーベル賞を受賞したリチャード・ファインマンもその著書で「本当に重要なのは、それをどのように定義するかではなく、どのように測定するかだ」と記している。

 人類は「時間とは何か?」を突き詰めるよりも先に、時間を測ることに重点を置いていた。

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慣性の法則が音楽に影響を与えた