(c)Passo Passo + Atiqa Kawakami
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 港家小そめは、五代目港家小柳(こりゅう)の浪曲を観て弟子入りを決意した。曲師の玉川祐子の家で小柳に稽古をつけてもらい、終わると3人で茶菓子を囲む。穏やかな日常のなか、師匠との別れのときが迫っていた──。ドキュメンタリー「絶唱浪曲ストーリー」の川上アチカ監督に見どころを聞いた。

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 浪曲の「ろ」の字も知らなかった2014年に仕事のリサーチで小柳師匠に出会い、衝撃を受けました。いい意味で「妖怪だ!」と思ったんです。存在に別格の凄みがあり、切れのある啖呵や艶っぽい表現を織り交ぜて、物語が描く時代に連れていってもらえた。師匠を追いかけて短編を撮影するなかで小そめさんに会いました。


(c)Passo Passo + Atiqa Kawakami
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 小そめさんにくっついて小柳師匠が居候をする祐子師匠の家を訪ねるうちに、浪曲の世界にある特殊な関係に興味を引かれたんです。同じ職業をしながら生活を共にする彼女たちには、どこか疑似家族のような温かさがある。歯にきぬ着せぬ物言いの、正直な付き合いがある。もともと浪曲界には「弟子はおなかを空かせて帰さない」という掟があり、ほかの世界よりも家庭的な印象がありますが、やはりこの関係性は小柳、祐子師匠のお人柄が大きいと思います。


(c)Passo Passo + Atiqa Kawakami
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 仕事を持つ女性同士だからこそわかり合える、話せるという感覚もありました。私にも「今日、帰ったらお父ちゃんにごはん作ってやるんだろう? これ持ってけ」と、おかずをわけてくださったり。映画には入れていませんが、師匠たちはみな壮絶な苦労をしてきています。祐子師匠は最初の旦那さんからDVを受けて、三味線一本だけを持って逃げています。また小柳師匠は片耳が聞こえません。浪曲師の中には盲目の方もいます。かつて芸能は弱者に開かれた仕事でもあったのではと思います。


川上アチカ(監督)/1978年、神奈川県生まれ。2004年から6年間、舞踏家・大野一雄氏の最晩年にカメラを向ける。短編ドキュメンタリー「港家小柳IN-TUNE」(15年)を経て、本作を制作。全国順次公開中(c)Kazuharu Igarashi
川上アチカ(監督)/1978年、神奈川県生まれ。2004年から6年間、舞踏家・大野一雄氏の最晩年にカメラを向ける。短編ドキュメンタリー「港家小柳IN-TUNE」(15年)を経て、本作を制作。全国順次公開中(c)Kazuharu Igarashi

 師匠たちと小そめさんは師弟でありながらお互いを補完しています。人間ってこんなふうにお互いに迷惑掛け合い、支え合って生きていけばいいんじゃないか、それが成り立つ社会だといいなと思います。そして観た後はぜひ舞台で生の浪曲のパワーを体感してほしいです。


(取材/文・中村千晶)

AERA 2023年7月10日号