ところで、そんな議論を嘲笑うかのように、岸田政権は、あれだけ儲かっているトヨタ向けに、1200億円もの巨額補助金を支払うことを発表した。しかも、その目的が、車載用電池の開発だというのだから2度驚いた。
トヨタが水素自動車に固執して、それに媚びた経産省と自民党が電気自動車(EV)の普及を遅らせたのは周知の事実。世界中でEV化競争が激化し、各国では車載用電池への投資が進んだが、日本ではほとんどEV生産がされていないので、電池産業には需要がない。ダントツのシェアを誇ったパナソニックは、あっという間に中国と韓国勢に抜かれて、今やシェア一桁という惨状だが、トヨタはその責任を問われてもおかしくない。ましてや、円安でボロ儲けし、毎年2兆円を超える利益を出しているのだから、責任を感じて、補助金をくれると言われても辞退するのが筋だろう。
政府も、トヨタにそんな金を出すくらいなら、その分を貧困対策に充てたらどうかと思うのだが、やはり、岸田政権には、そういうマインドは一切ないようだ。
大赤字を垂れ流しながら、少し税収が上振れしたからといって、それを戦争準備に使おうとする自民党。その間も政府の借金は増え続け、泥沼の異次元金融緩和からの出口が見つけられず、ジリジリと進む円安を止めることもできない政府・日銀。
前財務次官の矢野康治氏は、月刊「文藝春秋」(21年11月号)への寄稿の中で、今の日本の状況を喩えて、「タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなものです」「日本は債務の山の存在にはずいぶん前から気づいています。ただ、霧に包まれているせいで、いつ目の前に現れるかがわからない。そのため衝突を回避しようとする緊張感が緩んでいるのです」と書いた。
ここでいう「霧」とは、日本総研の河村小百合氏が言うとおり「黒田日銀が展開してきた異次元緩和のこと」(『日本銀行 我が国に迫る危機』講談社現代新書)かもしれないが、史上最高の税収は、さらにその霧を濃くしているようだ。不都合な真実がますます霞み、その先に待つのは……。