実質賃金が下がっているのに税率が上がるのはどう考えてもおかしい。本来は、物価上昇したのに合わせて、税率区分の境界となる金額をその分引き上げて、実質賃金が増えない限り税率が増えないようにすべきなのだが、そういう議論にならない。
ちなみに、富裕層が得る配当などの金融所得の税率は分離課税にすれば一律なので、配当が増えても税率は上がらないように手当されている。富裕層に有利な仕組みなのだ。
次に消費税も前年度より1兆円以上増えて23兆円台になる見込みだ。消費が持ち直したと書かれた記事もあるが、何といっても、前述したとおり、資源高とアベノミクスがもたらした異常な円安による物価高で名目の消費が増えたことが主な要因である。
ここで問題になるのは、庶民ほど消費に占める割合が高い食品やエネルギー価格が急激に上がったことで、やはり庶民直撃の消費増税の効果が生じていることだ。ここでも「インフレ税」がかかっているのだ。
一方、法人税も13兆円台から14兆円台に増加する。企業の経常利益は製造業も非製造業も史上最高だった。物価高で苦しむ企業も多いが、資源高でボロ儲けした商社やエネルギー関連企業、円安でウハウハだったトヨタなどの輸出企業は、何もしないのに利益が出た。生活苦に喘ぐ庶民とは好対照である。
海外では、こうした棚ぼた的利益を上げた企業に対して臨時の課税(「棚ぼた税」「ウィンドフォール課税」などと呼ばれる)を実施し、弱者対策の財源に充てることが普通に行われるが、日本では、そうした議論はほとんど出ない。
アメリカで大富豪たちが、富裕層に増税をと自ら提言を出したことが話題になったが、地位の高いものにはそれに応じた社会的責任があるという「ノブレス・オブリージュ」の考え方があるからだろう。日本にも昔はそうした考え方はあったと思うが、安倍政権以降は、それとは正反対に、権力者は「自分のために」何でもできるという文化が定着し、経済人もそれに倣うようになってしまったようだ。