だから30歳手前で病院の検査で引っかかったときは、もうそればっかり気になっちゃって。「次の検査では余命宣告されてるかも」とか「あと何回この夕日を見られるんだろうか」とか悪いことばっかり考えるんです。女優としての特性がマイナスなほうへ働いてしまって、勝手に自分を追い込んで、悲劇のヒロインになって。もうなーんも楽しくない、生きていたくないって思うくらい、苦しくて。
そんなとき、トロントの映画祭で、ステージIIIの乳がんを患っているカナダ人の方に出会いました。彼女はがんと一緒に生きていくって決めていて、手術も抗がん剤も放射線治療もしないのに、3年くらいがんが大きくならないんですって。私なんか病気になったって思い込んで自分に負けているのに、その人はこんな状態でも自分の人生をしっかりコントロールしている。その姿を見て、自分がすごく恥ずかしくなって、彼女にハグされたときに泣いてしまいました。それで、私も変わりたいって思った。そこから、生き方や価値観にパラダイムシフトが起きたんですよね。
※後編<工藤夕貴が語る、“ステップファミリー”で子を育てる喜び 「自分にも子どもがいればという後悔はない」>に続く
(聞き手・構成/AERA dot.編集部・大谷百合絵)
●工藤夕貴(くどう・ゆうき)
1971年、東京都生まれ。中学2年生のとき、音楽番組「ザ・ヒットステージ」で芸能界デビュー。歌手やアイドルとして活動する一方、映画「台風クラブ」「戦争と青春」で主演するなど女優の才能も開花させる。89年の日米合作映画「ミステリー・トレイン」への出演を機に、本格的にハリウッドに進出。映画「ヒマラヤ杉に降る雪」では、ゴールデン・サテライト賞の主演女優賞にノミネートされた。ドラマ「下町ロケット」「着飾る恋には理由があって」「山女日記3」など、近年も話題作への出演が続く。自然農法家の顔もあり、静岡県富士宮市で農業や日本酒の醸造、カフェ経営などに取り組んでいる。