――日経・経済図書文化賞の審査委員の一人、大竹文雄・大阪大学特任教授は「高校生から読める優れた啓蒙書」とし、「私たちの意思決定の裏に隠された謎が、次々と解き明かされる」と評しています。最後通牒ゲームでBさんが1円を拒否するのを「謎」と思うのは経済学者だけで、普通の人にとっては当たり前なんですよね。

 そうなんです。その当たり前という感覚は、この世界の中で生き延びて子孫を残す可能性を大きくしようとする中で育まれたんです。伝統的な経済学で「不合理」と見える行動も、いわゆる「合理的」な行動も、どちらも同じく進化の過程で身についた生き残り戦略として「合理的」だ、というのが私の主張で、それを「適応合理性」と名付けました。今は、英語版を出せないかと、いろいろ動いています。

――それは素晴らしい。

 行動経済学の学会誌では「新たな合理性概念を提案する野心的な書」と評されました。あのときしかってくださった奥野先生を始めコメントをくださったすべての先生方、そして週刊誌に推薦のコメントを寄せてくださった神取道宏・東京大学教授や小原英隆・明治大学教授そのほかの皆さんに、本当に頭が上がりません。無名とか下っ端とか、もうどうでもいいやと思うようになりました。

著者プロフィールを見る
高橋真理子

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ)/ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネータ―。1956年生まれ。東京大学理学部物理学科卒。40年余勤めた朝日新聞ではほぼ一貫して科学技術や医療の報道に関わった。著書に『重力波発見! 新しい天文学の扉を開く黄金のカギ』(新潮選書)など

高橋真理子の記事一覧はこちら