日本の特異な問題ではない
2019年、BBCは日本で大きく報道されたジャニー喜多川氏の死去をきっかけに、「彼はいったい何者なのか」というテーマで取材を開始した。そこで浮かび上がったのが、長年にわたる性加害の疑惑だった。
しかし、なぜ英国に拠点を置くBBCが日本の性的虐待疑惑を取り上げたのか?
「これは日本でだけ起こった特異な事件ではありません。社会や組織で力を持った人がその力を悪用し、児童虐待や性的虐待を行う事件は世界中で起きています」
そう言うと、有名なケースとして09年に亡くなった米国の歌手、マイケル・ジャクソンによる児童虐待疑惑を挙げた。
「英国ではBBCの人気司会者だったジミー・サビル氏、ハリウッドには元映画プロデューサー、ハーベイ・ワインスタイン氏の性暴力事件がありました。喜多川氏のケースはそれらのひとつなのです」
長年、芸能人やセレブの児童虐待や性的虐待は、彼らが個人的に起こしたスキャンダルとされ、社会的な問題とはとらえられなかった。
ところが、17年に発覚したワインスタイン氏の性暴力事件をきっかけに、その風向きが大きく変わっていく。被害を訴えようとした女性たちの声を握りつぶそうとした業界の体質や、性暴力に対する社会の認識の甘さが疑問視され、「#MeToo(私も)」運動が広がった。
「本当にやるの?」
そんななか、BBCは喜多川氏に注目した。
「元ジャニーズJrらが書いた告発本がこれまでに何冊も出ていますが、性的虐待疑惑は1960年代にさかのぼります。疑惑はうわさのようなものではなく、1回限りの出来事ではなかったこともわかりました。本に描かれた性的虐待は非常によく似ており、システマチックに虐待が行われたことをうかがわせます。さらに、99年には『週刊文春』の報道もありました」
この報道について、ジャニーズ事務所と喜多川氏は名誉毀損(きそん)で提訴。最終的に東京高裁は記事の重要な部分について、真実性があると認めた。