■世界の“特異点”にフォーカスする旅
――ピラミデンはどのように訪れるのでしょうか。
日本はスヴァールバル条約の原加盟国なので、島自体はビザなしで訪れることができます。ただ当然直行便はないので、まず日本からオスロ(ノルウェーの首都)へ行って、そこからスヴァールバル諸島の中心にあるロングイエールビエンに飛びます。そこから大体船で3時間ほどでピラミデンに着きます。ルートそのものは特に難しいことはないんですが、誰でもアポ無しで行ける場所では当然ないので、バレンツブルグにいるロシア人ガイドなどを雇っていくしかないですね。
ただし、自分が訪れたのは2020年の8月なんですが、その2カ月後に、ノルウェーが主導するスヴァールバルの観光局がウクライナ戦争に対する人道的処置を理由に、ロシアとの提携を打ち切りました。だから現在は多分アクセスがさらに難しくなっていると思います。
――そういう意味でも貴重な撮影となったわけですね。撮影で特に記憶に残っていることはありますか。
一番驚いたのは、白熊が出没したことですかね。スヴァールバル諸島自体、人間より白熊の方が多いと言われているくらいで、人間のいる場所にもよく迷い込むので、例えばロングイエールビエンでも街から一定以上離れる場合は猟銃の所持が義務付けられています。ピラミデンでも白熊がでるかもということだったので、ガイドはずっと猟銃を持っていたんです。それで撮影途中で本当に白熊が3頭現れて。結局街の中心部までは入ってこなかったんですが、すぐに建物の中に避難させられて、その時は異様な緊迫感がありましたね。
あとはピラミデンには3日間滞在したんですが、ちょうど白夜の終わりだったので、午前1時頃まで日が沈まない。それでまた朝5時くらいには日が昇るので、撮影しようと思ったら深夜12時頃まで全然できてしまうんです。だから明るい室内で撮影していてふと時計を見たら午後11:30だったりして、時間の感覚が狂いました。インターネットはもちろん使えませんし、携帯電話のローミングも含めて電波も入らないので、外部からも一切遮断されていて。もともと地理的にも世界の果てのような場所にあって、しかもタイムトラベルしたかのような不思議な景色で、さらに時間感覚もおかしいので、ずっと夢の中にいるような奇妙な撮影体験でしたね。