安倍晋三元首相が銃撃された現場付近を調べる捜査員ら=2022年7月8日
安倍晋三元首相が銃撃された現場付近を調べる捜査員ら=2022年7月8日
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 安倍晋三元首相の殺害事件から1年。何かを主張するために命を奪うという極端な暴力に訴える行為が許されるのか。銃犯罪がやまない米国と日本の若い世代に聞いた。AERA 2023年7月10日号の記事を紹介する。

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「日本はいろいろ問題を抱えているけれども、あえていいところを挙げるなら銃がないことだと思っている。もし銃が米国のように当たり前だったら、大変なことになっていたと思う」

 三好絵梨香さん(32)がこう言った。

 記者が今年4月、奈良市の近鉄大和西大寺駅北口を訪れた際だ。安倍晋三元首相が、山上徹也被告の凶弾に倒れたバス広場の真ん前にあるコーヒー店で、彼女は友人と歓談していた。

「大阪に比べて、ベッドタウンの奈良は落ち着いたところ。平城宮跡もあり、ゆったりと違う時間が流れている。でも日本では説明がつかない殺人犯罪が増えているということを、(首相殺害事件という形で)思い知らされた。格差の拡大などが原因だと思う」

 と友人の貝本美由希さん(38)。

 春の日差しの中、和やかにコーヒーを楽しんでいた二人だが、目の前30メートル付近のアスファルト路上で起きた凶悪な事件を冷静に分析してくれた。

■記憶から消したい

 大和西大寺駅前で、デパートやショッピングビルに囲まれた賑やかなバス広場。若い二人に比べて、話しかけた多くの年配者らの態度は異なった。記者を振り切って逃げる人さえいた。

「ニュースを聞いてすぐに駅前に駆けつけた。カメラマンや記者が多かったのを覚えている」

 と語るのは元公務員。当日の写真をスマートフォンで見せてくれた。しかし、

「銃による事件というのは、日本では、普通の人とは縁がないものだ。あんなことがここで起きたと思われるのは、嫌やな。人々に覚えていてほしくない。実は、自分の記憶からも消したいぐらいだ」

 と苦々しげに話す。

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