プライド・パレードで「対人殺傷用銃器を廃止して」というサインを掲げるギオッチさん。多くの共鳴する若者が涙ながらに彼女をハグしていた=6月25日、ニューヨーク、津山恵子撮影
プライド・パレードで「対人殺傷用銃器を廃止して」というサインを掲げるギオッチさん。多くの共鳴する若者が涙ながらに彼女をハグしていた=6月25日、ニューヨーク、津山恵子撮影

■シャツの下に短銃

 記者が住む米国では、凶悪犯罪の問題はさらに深刻だ。性的少数者であるLGBTQの権利と平等を訴える6月の「プライド月間」は今年、保守的な反LGBTQ派市民の動きが特に活発化し、緊張が高まった。ニューヨークでは6月25日、全米最大規模のLGBTQの祭典「プライド・パレード」が行われた。しかし、LGBTQを毛嫌いする反対派の過激な行動を警戒し、市民約200万人が沿道でパレードを歓迎する中、警察犬までが警備に当たった。記者は、パレードで練り歩く参加者の中に、大きめのシャツの下に短銃を身に着けた覆面警官さえ見た。過去のプライド・パレードではなかった光景だ。

「ドラァグクイーンではなく、対人殺傷用銃器を禁止せよ」

 という手製のプラカードを掲げる特殊教育教官のアンジェラ・ギオッチさん。ドラァグクイーンの一部にいるトランスジェンダーに対する差別やヘイト犯罪が特に増えていることを非難するプラカードだ。

「息子がゲイなの。南部フロリダ州で起きたゲイバーでの銃乱射事件などを思うと、胸が詰まる。あそこに息子がいたらと思うと……」

 と涙ぐんだ。

「命は命。銃が手に入りやすいことで、憎悪を抱いた相手を簡単に殺めることができる。LGBTQへの差別を助長することではなく、銃器を禁止することが今はとても大切」

 と訴えた。

 直前の6月14日、岐阜市内にある陸上自衛隊の日野基本射撃場で18歳の自衛官候補生が3人の自衛隊員に小銃を発砲したことを、想起させる。

■過去最速のペース

 米オンライン調査機関のガン・バイオレンス・アーカイブ(GVA)によると今年は、6月27日(米現地時間)までの殺人など銃が絡む暴力事件で9209人が死亡。銃乱射事件での負傷者が332人、死亡者が25人に及ぶ。銃乱射事件は今年3月時点で、過去最速のペースで100件を超えた。

 悲劇が増え続けているのは、米小売り最大手ウォルマートなどで銃器が販売され、銃器がごく簡単に手に入ることが背景にあることは長年指摘されている。多くの銃乱射事件で、被疑者が過去に問題ある行動やSNS投稿を行っており、それに警察が対応しなかった。

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