司法の壁に、一度は弁護士という道を断念しようとしたこともある。だが、アメリカで見た光景が谷口太規に、公共訴訟は「変わらない社会を変えられる」可能性があると気づかせてくれたという(撮影/篠塚ようこ)
司法の壁に、一度は弁護士という道を断念しようとしたこともある。だが、アメリカで見た光景が谷口太規に、公共訴訟は「変わらない社会を変えられる」可能性があると気づかせてくれたという(撮影/篠塚ようこ)

 個人の権利回復を求めるだけでなく、社会の仕組みを変えることも目指す「公共訴訟」。日本では現状、弁護士がほぼ“手弁当”で担っている状態だ。経済基盤を安定させることで公共訴訟の担い手を増やすことを目指すプロジェクトが立ち上がろうとしている。AERA 2023年7月3日号の記事を紹介する。

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 若者たちの政治参画を目指すNO YOUTH NO JAPAN(NYNJ)の代表、能條桃子(25)は3月、Twitterでこうつぶやいた。

「実は昨日、神奈川県知事選挙に立候補届を出しに行きました。が、被選挙権年齢(選挙に立候補できる年齢)が30歳なので、先日25歳の私は不受理になりました。これから被選挙権年齢の引き下げに向けて、仲間たちと一緒に公共訴訟という形で問題提起をすることを計画中です」

 大学時代にデンマークに留学し、若者たちが日常的に政治を話題にしていることに衝撃を受けた能條は、2019年にNYNJを立ち上げた。だがそもそも、自分たちの声を託したい同世代の候補者がいないことに気づく。

 16年に選挙権年齢は18歳に引き下げられたが、被選挙権は都道府県知事、参議院議員が30歳以上、衆議院議員、市区町村長、都道府県・市区町村議会議員は25歳以上のままだ。世界の国々では徐々に引き下げられ、日本の衆議院に当たる下院には18歳や21歳で立候補できる国は120カ国以上にもなる。

「なぜ日本は25歳と30歳のままなのか。これには合理的な理由がありません。少子化対策などに若者世代の声が反映されてこなかったのは、中高年の男性中心の政治が続いているから。雇用や気候変動、ジェンダーなど10代・20代にとって関心の高い政策を進めるためにも、被選挙権年齢を引き下げ、多くの若い世代が政治に参画する必要性を感じてきました」(能條)

 そんな時に出合ったのが公共訴訟を支援するNPO法人CALL4だった。

 公共訴訟とは個人の権利回復を求めるだけでなく、社会の仕組みを変えることも目指した訴訟だ。これまでに「一票の格差」や「在外日本人選挙権」など当事者が起こした訴訟が広く社会課題への関心を呼び、制度や法律を変える契機にもなってきたことから、「社会を変えるための裁判」だとも評される。最近では同性婚や選択的夫婦別姓制度をめぐる訴訟もそうだ。

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