「社会の司法への期待や信頼を見て、胸が熱くなりました。一方で、自分自身は必死でやってきたけど、頑張る方向が間違っていたのではないかと感じました。もっと仲間を増やし、司法をより多くの人に開く活動をすべきだったのではないかと思ったのです」
帰国後、谷口はCALL4を立ち上げ、裁判ツアーやクラウドファンディングを通じて、「司法をひらく」活動を始めた。
そして今、谷口は公共訴訟を主体的に担うプロジェクト、「LEDGE」を立ち上げようとしている。広く寄付を集め、弁護士だけでなく、専従のリサーチャーらの経済基盤を安定させることで公共訴訟の担い手を増やすことを目指している。メンバーには、趣旨に賛同した元編集者など法曹界とは関わりのなかった人もいる。
CALL4を谷口とともに立ち上げ、LEDGEにも参画する弁護士の井桁大介は、公共訴訟の担い手の減少に危機感を募らせている。
「司法改革以後、弁護士増員に伴い、1人当たりの平均売り上げは1千万円ほど減少しました。今後ますます“お金にならない”公共訴訟を引き受ける弁護士は減っていくかもしれません。引き受けても日常の仕事に忙殺されていては、思うような主張や立証をできず、結果を出すことも難しい」
理想を掲げて熱い想いで突き進む谷口に対し、井桁は想いだけでは持続可能性が低くなると、ITも生かし寄付が集まる仕組みを作るなど戦略を担う。
アメリカにはアメリカ自由人権協会(ACLU)という公共訴訟を専門に扱う組織があり、専従の弁護士を抱え、予算は年間数百億円規模にのぼる。支えるのは大口から市民まで幅広い人たちの寄付だ。
「日本にも公共訴訟に専従できる環境ができれば、目指す若い弁護士も増える。担い手が増えることで、司法と社会をアップデートすることにもつながります」(井桁)
■声上げる人がいないと社会は変わらない
日本でもベストセラーとなった『FACTFULNESS』や『ゼロ・トゥ・ワン』の翻訳者としても知られる関美和は、早くからCALL4やLEDGEを支援してきた。Twitterで流れてきた、ネパール人男性が取り調べ中に死亡したことに対する国家賠償訴訟を支援するCALL4の活動に寄付をしたことが始まりだった。