つまり、ファーストスターが発した光は、現在の地球では可視光線として見ることはできず、赤外線でしか観測することができない。この赤外線こそがJWSTのターゲットとなる。

 JWSTのような赤外線望遠鏡が打ち上げられる理由、つまり赤外線による観測の利点はもう一つある。

 宇宙空間にはガスやチリなどが存在するが、可視光線で観測すると、視界はそれらに遮られ、さらに遠方は見ることができない。しかし赤外線の場合は、そのガスやチリの奥に広がる天体を透視することができる。

 この現象を、同じ電磁波の仲間である電波、ラジオに例えてみる。FMラジオの電波(超短波)は、波長(1~10メートル)がビルより短く、建物にぶつかって超えることができない。しかし、AMラジオ(中波)の場合は、途中にビルがあっても遠くまで届く。それはAMラジオの波長(100m~1キロ)がビルの幅よりも長く、ビルを迂回(うかい)するためぶつかることなく、さらに先へ進むことができるからだ。

 つまり、136億光年離れた遠方で発せられた光を見つけるには、FM電波のように波長の短い可視光線による観測より、AMのように波長の長い赤外線のほうが有利といえる。

巨大なサンシールドやミラーはロケットに搭載する際にはコンパクトに折り畳まれ、打ち上げ後に宇宙空間で展開される (C)NASA, ESA, CSA, Joyce Kang (STScI)
巨大なサンシールドやミラーはロケットに搭載する際にはコンパクトに折り畳まれ、打ち上げ後に宇宙空間で展開される (C)NASA, ESA, CSA, Joyce Kang (STScI)

  JWSTの機体は特殊な形をしている。魔法のじゅうたんのようなサンシールド(日よけ)は長さ21メートル、幅14メートル。つまりテニスコートとほぼ同じサイズだ。ではなぜJWSTはこんな特殊な形状をしているのか?

 前述したとおりJWSTは、遠方の星が発したかすかな光、赤外線をキャッチする。しかし、赤外線は太陽や地球などの熱からも放射されている。そのためJWSTは巨大なサンシールドを常に太陽、地球、月の方向へ向け、その熱を徹底して排除しつつ、ファーストスターからの微弱な赤外線をとらえようとしているのだ。

 太陽光などにさらされる機体底部の温度はセ氏125度まで上昇するが、サンシールドは多層構造になっているため、その熱は観測機器が搭載されている機体上部まで届かない。

 機体下部が高温になる一方で、機体上部は極寒の宇宙空間においてはセ氏マイナス233度まで下がる。JWSTの観測機器は、この超低温の環境下でも確実に働くよう設計されており、なかでも中赤外線を捕捉する観測機器「MIRI」は、絶対零度(マイナス273度)に近いマイナス266度でも動作する。遠方の星が放つ微細な赤外線をキャッチするには、こうした超低温環境が必要なのだ。

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