
──次の世代に継承していきたいことはあるのだろうか。
蜷川:ずっと必死に仕事をしてきて、そんなことを考える余裕もなかったんですけど、最近は自分のノウハウをできるだけ伝えたいなと思うようになったかな。クリエイションというより、社会を生き抜く術に近いんだけど。女性が社会で生きる大変さも含めたうえで「生きてくって面白いよね」と肯定する方法みたいなものは、若い世代の子たちにも伝えてあげられると思う。
木村:お互いに家族がいて、子どもが存在してくれていることは大きいよね。
俺は「こうだよ、ああだよ」というのは苦手で。となると、「背中で見せる」しかない。ただ、「俺、背中を見られてんのかな」と考えると、みっともない背中は見せらんないよなと思うよ。だったら、「ちゃんとしないとだめだよね」って、結局自分に戻ってくるんだよね。「次の世代のために」なんておこがましいことは言いたくないけど。
蜷川:うん、ものをつくるときに「誰かのため」って考えるのはちょっと違うよね。私もシャッターを切る瞬間は、雑念を振り払って極力シンプルでいたい。
木村:だから、常に自分が全力でやっている姿を見てもらうしかないんだと思います。
(構成/ライター・澤田憲)
※AERA 2023年6月26日号より抜粋