元朝日新聞記者 稲垣えみ子
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 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 またぞろマイナンバーカードを巡るトホホな話題が世間を賑わせている。もう話が混乱しすぎて何がなんやら。個人的には、お国は、そして国民の皆様は、結局のところ一体何を目指しているのか? ということがとても気になる。というかよくわからない。というか全然わからない。


 なのでそこは一旦脇に置いておいて。


 このコラムでも何度もマイナカードにはツッコミを入れてきたのでご想像がつくと思うのだが、私、カードを未だ作っておりません。


 納得できないことはしない、というのが、会社を辞めてフラフラ生きている人間の最も素晴らしい特権である。で、結論からいえば、マイナカードを作ることに関して「納得できる」タイミングが一度もなかったのだ。


 最初は、住民票をコンビニで取れるという、私にとっては数年に一度しかないであろうレアな事態に備えて何でわざわざ作らなあかんのという素朴なところからスタート。その疑問が解消されぬまま、カード作ったらお金あげるヨとか、カードを作らないと病院にかかるのが不便になるヨとか、いやいやそういう脅しと特典で中身はようわからんもんを押し付けるって悪徳商法とどう違うのかということが個人的に一ミリも理解も納得もできず今に至る。


この季節が嫌いじゃないのは紫陽花が大サービスでドッカンドッカン咲いてくれるゆえ(写真:本人提供)
この季節が嫌いじゃないのは紫陽花が大サービスでドッカンドッカン咲いてくれるゆえ(写真:本人提供)

 で、今の混乱ぶりを見ると、これから先、こんな私が「納得できる」タイミングは死ぬまで来ないだろうとしか思えない。この調子で行くと、カードを作らない人間へのペナルティーはさらに積み上げられそうな気しかしないが、そもそも強制じゃないのにペナルティーを科すという「姑息さ」に納得できないのだから私のハートは頑迷になる一方である。


 ってことで、こうなったら行けるとこまで行くしかないと腹を固めている。まあ一つの人体実験ですね。お国の方針に従わぬ人間の末路はどうなるのか? とんでもない酷いことになるのも、理不尽な迫害に耐えるヒーロー気分も味わえてそれはそれで面白い気もする今日この頃である。


◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

AERA 2023年6月26日号