■次のフェーズは世界との人材循環
日本のスタートアップエコシステムの次のフェーズでは世界との人材循環が大事になってくる。これまで述べてきたように、自らとは異なるフレームをもつ人たちとの深い交流で新しいアイデアを見つけたり、日本にいるだけではできないと思われたりしていることが実はできるという感覚である。
逆に、自分が限られた環境でどんなにすばらしいと思っていても、世界のあらゆるところから来た人たちはその上を行くアイデアや、議論を通してのフィードバックで思わぬ方向に構想を高めたり、小さめのスケールで考えたりしていたことを本当にグローバルなスケールで考えるなど、得られる価値は大きい。スタンフォードへの留学、進学などは、もっとも刺激も人脈にもめぐり会える機会かもしれない。しかし、強いていえばスタンフォードでなくてもよい。
海外経験は出張よりも長いほうがよいが、コロナ鎖国が長引いた日本では、たとえ短期出張でも新しい感覚にめぐり会いやすい。たとえば2022年にはすでにロンドンのタクシーの3分の1が電気自動車になっているとわかれば東京にEVが走った場合の綺麗な空気が想像できるようになる。スタンフォード近郊のパロアルトやメンローパークのアッパーミドルクラスの住宅地で、場所によっては3割以上の家にテスラが停まっているのを見ると、世界は本当にEVにシフトするのかどうかという疑心を抱く日本国内の議論は、もし日本がEVに舵を切らなくても、世界は間違いなくその方向に動くであろうということがわかる。
スマートフォンに比べて自動車は複雑で、充電インフラも必要だが、同じようにディスラプトされる危険性や、EV化がもたらすさまざまな生活様式の変化をチャンスととらえられる。テスラではすでに車内で車載カメラと大画面を使ってZoom会議ができる。寒い日や暑い日にアイドリングをせずに空調をかけて仕事ができる「個室」の姿を見たら、さまざまなビジネスチャンスを見出すことができるだろう。日本の高齢化・過疎化する地域での「移動も待機もできる個室」という概念に新しい町づくりを見出せるかもしれない。