キャンパスの象徴的な教会 Memorial Churchの周りは教室やオフィスで、雲を書き忘れた絵のような青空は「できるよ感」を漂わせる
キャンパスの象徴的な教会 Memorial Churchの周りは教室やオフィスで、雲を書き忘れた絵のような青空は「できるよ感」を漂わせる
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 なぜ、スタンフォードは常にイノベーションを生み出すことができ、それが起業や社会変革につながっているのか? 書籍『未来を創造するスタンフォードのマインドセット イノベーション&社会変革の新実装』では、スタンフォード大学で学び、現在さまざまな最前線で活躍する21人が未来を語っている。本書より、カーネギー国際平和財団シニアフェローの櫛田健児がスタンフォードで学んだこと、その後の研究や活動を通して感じた「日本」への思いなど、一部抜粋・再編し前後編でお届けする。

※「前編」よりつづく

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 日本のスタートアップエコシステムは、ゆっくりとしか変われない大企業中心の日本経済に必要なダイナミズムやフレキシビリティーを注入するポテンシャルがあり、大企業を置き換えなくても大企業の方向性を変えるという重要な役割も担う。

 ここ10年で、日本におけるスタートアップエコシステムのパーツは著しく発展し、それぞれのコンポーネントで好循環スパイラルができあがりつつある。VC業界の発展が進み、日本におけるVCの投資額は、2011年の824億円から2021年には7801億円と、過去10年間で約10倍に増加していて、独立系投資家の台頭により成熟してきた。

 また、日本のスタートアップエコシステムは一流大学、大企業、政府、などからのエリート人材を活用している。大企業も、単独では容易に達成できないことを行うために、オープンイノベーションの取り組みでスタートアップと提携する例が増えている。

 大学発のスタートアップも急増しており、ディープテック(deep tech)からバイオなどの領域まで有望な企業が生まれ、どんどん上場している。上場の規模はまだ小さいが、上場経験者が増え、事業を上場させた人たちが次の世代に投資をしてメンタリングする循環も生まれている。

 政府、経済団体連合会、東京大学総長、行政の経済戦略計画などがそろってスタートアップエコシステムの成長を明確に後押ししていて、過去半世紀のどの時点に比べても、スタートアップエコシステムの社会的正当性(legitimacy)は高くなっている。

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さらに、エコシステムのそれぞれのコンポーネントに目を向けると…