さらに、エコシステムのそれぞれのコンポーネントに目を向けると、好循環スパイラルが見られる。
VC業界は独立系VCが主役となり、1990年代の後半に東証マザーズなどの小資本市場が整備されたことで、新興企業の早期IPOが可能になった。VCが投資リターンを実現し、リターンが増えるにつれ、より多くの資金と経験者がVC業界に集まり、スタートアップの資金調達の機会を増やし、VCのさらなるリターンを実現する機会が増えた。
労働市場では、スタートアップエコシステムにおける労働市場は流動的でダイナミックなものとなり、エリート卒業生が大企業やエリート省庁の職を離れてスタートアップに行けば行くほど、かつての同僚や学友などの人脈や社会的正当性などから、次の人材の波がスタートアップエコシステムに引き寄せられやすくなり、人材の流動性がさらに高まった。
また、日本の情報技術(IT)分野の発展や外資系企業の金融分野への進出が加速したことで、労働市場の流動性が高まり、スタートアップエコシステムを後押しした。
大学発スタートアップも、先輩たちがスタートアップを興せば興すほど、次の世代はスタートアップを興すことが通常の選択肢に含まれるようになり、ラボを率いる大学教授のコミュニティーにも大学にもノウハウがたまる。ノウハウがあればあるほど、次の大学発スタートアップを考える人たちのハードルが下がり、さらなるスタートアップが生まれやすくなる。
スタートアップエコシステムの各コンポーネントはそれぞれ他のコンポーネントと補完関係があるので、全体が発展するには時間がかかった。たとえば人材の流動性が低いとスタートアップに行く人材が限られ、そうするとVC投資をしても成功する確率が低くなり、リターンが少なければ資金が集まらず、成功するスタートアップが少ないと上場経験者が増えず、エンジェル投資家が増えなくなり、業界に資金が集まらない、という事態になっていた。しかし、好循環スパイラルがいくつもできて、それぞれのコンポーネントが伸びてきたので、エコシステム全体が成熟してきていて、将来が期待できる。