映画「世界が引き裂かれる時」
映画「世界が引き裂かれる時」
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 ロシア国境に近いウクライナ東部ドネツク州。2014年、妊婦イルカ(オクサナ・チャルカシナ)と夫トリクの家を親ロシア派分離主義勢力が誤爆する。壁に開いた穴を塞ごうとする二人だが、村はロシア側の武装勢力に占領されていく──。日常にしのびよる戦争の影が不気味に映し出される映画「世界が引き裂かれる時」。脚本も務めたマリナ・エル・ゴルバチ監督に見どころを聞いた。

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映画「世界が引き裂かれる時」
映画「世界が引き裂かれる時」

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 ロシアによるウクライナの侵攻は2014年から始まっていました。クリミアの併合があり、本作に登場する親ロシア派分離主義勢力によるマレーシア航空機の墜落という悲劇もあった。が、それに対しヨーロッパの国々が無関心で、ウクライナ国内でのいざこざだと片付けていることが受け入れがたかった。自ら声を上げなければ、という思いで本作を作りました。

映画「世界が引き裂かれる時」
映画「世界が引き裂かれる時」

 私もイルカと同じく14年に第2子を出産しました。本作は戦時下での出産にフォーカスした物語ではありませんが、母親が命という奇跡を生む存在であることは疑いようのない事実です。兵士にもロシアの大統領にも母親がいる。いっぽうで大量の武器を手に入れ、人を殺そうとする人がいる。この相反する対比と、その間に挟まれた存在としてイルカを描きました。

映画「世界が引き裂かれる時」
映画「世界が引き裂かれる時」

 戦闘シーンを描くことに興味はありませんでした。しかし描かずとも裏で暴力的なことが起きていることを、見る人に想像させることができたと思っています。それが映画の力であり、映画ならではの表現だと思うのです。

マリナ・エル・ゴルバチ(監督・脚本)Maryna Er Gorbach/1981年生まれ。キーウの国立大学を経てアンジェイ・ワイダ映画学校を卒業。本作を含む3本の長編映画を監督および制作。17日から全国順次公開
マリナ・エル・ゴルバチ(監督・脚本)Maryna Er Gorbach/1981年生まれ。キーウの国立大学を経てアンジェイ・ワイダ映画学校を卒業。本作を含む3本の長編映画を監督および制作。17日から全国順次公開

 私はキーウで素晴らしい先生方から映画を学んだあと、アンジェイ・ワイダ監督の学校に通いました。ちょうど彼が「カティンの森」を制作していたときで、彼は「ここで教えるよりも、映画を作りたいんだ」と言っていました(笑)。技術的なことだけでなく、映画に対する姿勢を学んだと思います。映画とは自分の思想や主義を多くの人に発信し、広げることができるものであり、それこそが映画の力なのだと教わりました。

 戦争はウクライナだけでなく世界中で起きています。遠い国の話ではなく誰にでも関係します。だから私たちはお互いを守らなければならない。本作からそんなことを思ってもらえればうれしいです。

(取材/文・中村千晶)

AERA 2023年6月19日号