文字が読めないせいで学べない。そんな「社会の穴」を埋めたいという決意が、画期的な書体を生んだ(撮影/岡田晃奈)
文字が読めないせいで学べない。そんな「社会の穴」を埋めたいという決意が、画期的な書体を生んだ(撮影/岡田晃奈)

 書体デザイナー、高田裕美。明朝体、ゴシック体、教科書体。格調高いものからカワイイものまで、社会には無数の書体が溢れている。だが、書体によって文字の「読みやすさ」が大きく変わり、学習に不自由を強いられている子どもたちもいる。実情を知った高田裕美は、「文字のユニバーサルデザイン」に奮闘する。目指したのは、誰一人取り残さない書体の開発だ。

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 2136。小中学校の義務教育課程で、私たちはこれだけの常用漢字を習う。ここに平仮名、片仮名、数字、アルファベット、さらに!や@といった50近くの記号が加わり、日常的に使う「日本語」は生成されている。社会生活を支障なく営むためには、少なくとも2500近くの文字や記号を瞬時に判別できなければならない。

 だが例えば、全く度数が合わない眼鏡をかけて街に出たらどうなるだろう。あるいは、米粒に書かれた文字を虫眼鏡で拡大しながら勉強しなければならないとしたら……?

 日本の識字率は100%近い。しかし文字や言葉は理解できても、環境のせいで読み書きの学習に不自由を強いられている子どもたちがいる。

 16年前、書体デザイナーの高田裕美(たかたゆみ・59)は、ユニバーサルデザイン(UD)の書体を開発する過程で、視覚に障害のある子どもたちが通う特別支援学校を訪れ、初めてその事実を知った。

「『これは社会の穴だ』と思いました。世の中には無数の書体があるのに、ロービジョン(弱視)の子どもたちが安心して読み書きできる書体がない。そのせいで思うように学べない状況が放置されていたからです」

 デザイナー歴32年。新聞、テレビ、ワープロ、絵本、食品パッケージから電車の車内表示に至るまで、さまざまな物や場所で使われる文字を開発してきた。高田は文字の職人として、デザインの力で「この穴を埋めたい」と考えた。

 そして8年の歳月をかけて完成させたのが「UDデジタル教科書体」だ。書体は、筆文字のような筆順の流れを残しつつ、フェルトペンで書いたように線の太さが均一で柔らかい。健常者だけでなく、視界がぼやける、眩(まぶ)しさを感じるといったロービジョンの人々や、文字を早く、正しく読み書きすることに困難があるディスレクシア(発達性読み書き障害)の人々にとっても、読みやすく、学びやすいように設計されている。

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