今年3月、埼玉県の中学校で男性教員が刃物で切りつけられ、少年が逮捕された。少年は、猫の死骸が相次いで見つかった事件への関与を認め、残虐な動画を視聴するうちにエスカレートしたという。子どもがネットを利用していれば、残虐な動画を見てしまうことある。どのように向き合えばいいのか。AERA 2023年6月5日号から。
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誰もがスマホを持つ時代で、“残虐な動画”を見る可能性は誰にもある。動画によって攻撃的な行動に出ることを防ぐにはどうすればいいか。発達心理学が専門の法政大学の渡辺弥生教授は、「周りの大人の役割が重要」と話す。
「ネットの世界には、暴力的で残虐な動画が満ちあふれています。また、長い時間スマホを見ている子どもほど好奇心が薄れ、ネガティブな感情を抱きやすくメンタルヘルスが悪くなるという研究があります。周りの大人はまずそのことを理解し、『スマホを見てはダメ!』『残虐な動画は見てはいけない!』と頭ごなしに子どもの行動を制止するのではなく、視聴がどのような影響を与えるか、子どもの発達に応じ納得できる説明をするのと同時に、ストレスへの対処の仕方や現実の世界で楽しめるよう導く工夫をすることが大事です」
情報社会学者で城西大学の塚越健司助教は、動物虐待動画を巡る問題は「社会全体で考える課題だ」と指摘する。
「残虐な動画を見たから人を殺そうと思うのではなく、そうした心理状態にある時に見た動画と偶然マッチしたとも考えられます」
例えば、ヤクザ映画を観た後、気持ちが高揚して言葉が強くなることがあるが、それはあくまで一時的なものだ。メディアの効果を巡ってはさまざまな議論があるが、その影響は巷で考えられるほど大きくはないという考えもあるという。より重要な点は、20世紀の米社会心理学者ポール・ラザースフェルドが唱えた「コミュニケーションの2段階の流れ仮説」。これは簡単に言えば、人はメディアから直接影響を受けるのではなく、オピニオンリーダーとコミュニケーションする中で意見を形成していくというもの。その過程で、極端な意見が濾過(ろか)される機能があると話す。