ベビーカーマークがついた車両に乗り込む乗客。2015年JR新宿駅で
ベビーカーマークがついた車両に乗り込む乗客。2015年JR新宿駅で
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 2人の子どもを育てる漫画家の田房永子さんと、子どもを持たないライターの武田砂鉄さん。双方の視点から、日本の子育ての現状や課題について語り合った。AERA 2023年6月5日号から。

【写真】武田砂鉄さんと田房永子さん

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田房永子(以下、田房):日本は、子育てしている側も遠慮している気がします。私、ベビーカーで出かけるときって、「すみません、すみません」みたいなマインドでした。それが自分でもおかしいと思うから、堂々としようって思っていたけど、なかなか難しくて。それって個人的な頑張りだけでは、どうにもならないんです。

 最近は、ターミナル駅に「ベビーカーに思いやりを」という啓発ポスターが貼ってあります。10年前は電車に乗る時はベビーカーをたたむべきかの是非問題議論みたいなのがされていたので、すごくいい方向に進んでいると思います。こういうポスターがあるかないかでも、全く親たちのマインドって変わってきますから。

武田砂鉄(以下、武田):例えば、混雑したターミナル駅をベビーカーで素早く移動しなくちゃいけないとなると、「すみません」って言いながら行くのが「一番早く行ける」という部分があるわけですね。「すみません」って言うと、さすがに空けてくれる。本当は謝る必要なんてないのに。

 実家が多摩地区なんですが、近くのイオンモールに親と平日の昼過ぎに行ったら、ベビーカーこそメインみたいな比率で、そこに「中年男性」「背大きめ」の自分がいると、たちまちアウェー感がある。そうなると、こっちが歩く場所を配慮する感じになる。

 ベビーカーで出かける人たちが「すみません」って言って何とか通れる感じを、「すみません」なしで行けるようにするにはどうしたらいいか。当然、ベビーカーを押している人たちに要請するよりも、他者に変えてもらうしかない。新宿駅あたりの混雑を想像すると、ポスターだけじゃ変わらない気もします。いる人数といい、スピード感といい、スペースといい。では、健やかに子育てしたい人は郊外でよろしく、というのも絶対に違うし。

田房:本当に、住むところすら別にするみたいなことになっちゃいますよね。

ライター 武田砂鉄さん(40)/1982年生まれ。出版社勤務を経てライターに。著書に『紋切型社会』『べつに怒ってない』『父ではありませんが』など
ライター 武田砂鉄さん(40)/1982年生まれ。出版社勤務を経てライターに。著書に『紋切型社会』『べつに怒ってない』『父ではありませんが』など

■公園で感じた変化

武田:今回のスープストックの件もそうですが、この手のテーマの議論ってずっと繰り返されています。たぶんまた来週、再来週には、別の何かが出てくる。そうして繰り返していく中で、意見や問題意識が出てきて、それに理解を示す人も一定数出てくる。それを繰り返していくことで、変えようと思う人が増えてくる、という方法しかないのかもしれません。

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