タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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生まれて初めて買ってもらった図鑑は、恐竜図鑑でした。5~6歳の頃、父に本屋さんで好きな本を一冊買ってあげるよと言われたのです。平積みの恐竜図鑑を抱きしめてレジまで行った光景を覚えています。表紙には鋭い歯の並んだ茶色いティラノサウルス。まだ羽毛は生えていませんでした。お気に入りは、巨体に長い首の草食恐竜。もう45年ほども前の話です。今では恐竜たちの想像図は、当時とはかなり違っています。
今、私の部屋にはティラノサウルスのぬいぐるみが飾ってあります。最新の学説を反映して、茶色い体に白いふわふわの羽毛を纏(まと)った姿。まあ実際にはもっとカラフルだったかもしれませんが。もし学説が覆った時のために、羽毛はいつでも脱げるようになっています。このところは陽気が良くなってきたので、上半身の羽毛を脱がせて半身羽毛の姿。先日、ティラノサウルスの歯は剥き出しではなく、唇があったのではないかという説も知りました。てことはコモドオオトカゲのような顔だったのかな。2018年にアルゼンチンで見つかった新種の草食恐竜、チュカロサウルス・ディリピエンダの化石は、世界最大級の全長30メートル、体重は推定50トン。しかもその巨体で何度も転んだ形跡があるというのです! きっと凄まじい地響きだったでしょう。一体何頭の小型恐竜が下敷きになったことか。
日本では今夏、福井県立恐竜博物館がリニューアルオープンします。今から楽しみです。来年には新幹線が開通するので、全国から恐竜ファンが訪れることでしょう。
今では鳥は恐竜の子孫という説が有力です。確かにオーストラリアの動物園で見たヒクイドリは、どう見てもほぼ小型の恐竜でした。東京のカラスやハトだって、足を見ればまるでティラノサウルス。身近に姿を変えた恐竜がいると思うと、わくわくしますね。
◎小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。寄付サイト「ひとりじゃないよPJ」呼びかけ人。
※AERA 2023年6月5日号