撮影/三山喬
撮影/三山喬

■人間をおかしくする

 この光景は藤木氏にはどう映るのか。改めて本人に聞くと「こっちは横浜の問題として闘ってきたわけで、大阪のことは大阪で決めればいい」と、立ち入った言及はしなかった。

 ただ、ニュースの街頭インタビューで大阪の住民が「パチンコだってあるわけだし」と容認論を語ったり、吉村洋文・大阪府知事も似たような発言をしたりする状況があることを告げると、「カジノの恐ろしさはパチンコとは比べものになりません」と藤木氏は強調した(藤木氏は先の協会挨拶でパチンコのことにも触れ、より多くの依存症報道が必要だと訴えていた)。

 そして取り出したのは、米国で数々のカジノ建設を手掛けてきた現地在住の建築デザイナー・村尾武洋氏から4年前、受け取った手紙だった。

「未来の日本を守るためお役に立てれば」と、村尾氏は業界の内部から見たカジノ・ビジネスの実態を赤裸々につづっていた。

「カードゲームは5秒、10秒で1ゲーム、1回の賭け額が1千万円などもあり、とても裕福に見えない(のに大金を賭ける)お客さまもいる」

「カジノにはローンを受け付ける部屋があり、お客さまの収入、家などを抵当に貸し出します」

 とあるカジノからの帰路、高級車に乗る裕福そうな若者から施しを求められたこともあり、聞けば、全財産を失ってガソリン代もないとのことだった。

 藤木氏は来日した村尾氏から対面でも話を聞き、そのことがカジノに反対する「最後のひと押し」になったという。

「彼は“瞬殺”という言い方をしていました。人の人生を一瞬で終わらせる。別の方からは、シンガポールのカジノで負け、ホテルから飛び降りた人を目の前で見たショックも聞きました。カジノは人間をおかしくする。絶対にダメなものですよ。みんなもう少し実情を知ったほうがいい」

(ジャーナリスト・三山喬)

AERA 2023年5月29日号