港湾人の価値観は「義理と人情が基本」と強調する藤木幸夫氏。新自由主義や自己責任論の潮流は「社会の劣化だ」と嘆く(撮影/三山喬)
港湾人の価値観は「義理と人情が基本」と強調する藤木幸夫氏。新自由主義や自己責任論の潮流は「社会の劣化だ」と嘆く(撮影/三山喬)
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 国が大阪府・市のカジノを含む統合型リゾートの整備計画を認定。一方、横浜ではカジノ反対の世論が結実した。立役者となった“ハマのドン”が思いを語った。AERA 2023年5月29日号の記事を紹介する。

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 5月8日、横浜市で「横浜港ハーバーリゾート協会」の拡大役員会が開催され、港運関係者など数百人が参集した。ハマのドンこと藤木幸夫会長を先頭に山下埠頭での“カジノ構想”に反対し、一昨年“反カジノ”の山中竹春・新横浜市長を誕生させる一翼を担った団体だ。カジノ抜きの埠頭再開発を目指し、現在も独自案の検討を重ねている。

 会場にはそこかしこに3日前に封切られた映画「ハマのドン」(松原文枝監督)のポスターが貼られていた。御年92、横浜の保守政界・経済界を取り仕切る重鎮でありながら、菅義偉・前首相のお膝元で“国策カジノ”に抗(あらが)ったその闘いを記録したドキュメンタリー映画である。

■新しい包丁とまな板で

 役員会で挨拶に立った藤木氏は、来賓席にいる斎藤文夫・元自民党参議院議員の名前をあげ、「私は今、斎藤先生と口論しました。自民党はなっちゃいないって。そうでしょう。事実は事実です」。実はこの斎藤元議員こそ、藤木氏にギャンブル依存症の専門家を紹介し、彼に反カジノの思いを芽生えさせた人物だが、斎藤氏にとって藤木氏vs.自民党の“全面対決”は予想外の展開。映画には、斎藤氏が事態にうろたえる様子もとらえられている。

 しかし藤木氏は容赦がない。会場には与野党の市議、県議、国会議員も30人ほどいたが、「今の自民党の政治家は落第生ばかり」「議員の世襲が日本を滅ぼします」と批判を繰り返した。

 そして最後には次世代への期待をこう語った。

「これからは新しい包丁で、新しいまな板で横浜をつくっていってもらいたい。横浜港には立派な後継者がいっぱいいる。政治の世界のほうが遅れています。いい意味で競争してもらいたい」

 横浜ではこうしてカジノ反対派が凱歌(がいか)をあげる一方で、大阪府と大阪市のカジノを含めた総合型リゾート、IR整備計画はこの4月、政府から正式に認定を受けた。

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