現行の法律では、難民申請中は強制的に送還されることはない。しかし、現在国会で審議中の改正案では、3回目以降の申請中であっても強制送還ができるようになっている。これでは、祖国に帰ったら迫害の恐れがある人の命を、日本が差し出してしまうようなものだ。

入管法改正案に反対して行進するデモの参加者たち。各自プラカードなどを掲げて反対を訴えた(撮影/黒坂真由子)
入管法改正案に反対して行進するデモの参加者たち。各自プラカードなどを掲げて反対を訴えた(撮影/黒坂真由子)

■入管の「イメージ戦略」

 スピーチに立った西山温子弁護士は、「もっともらしい数字を出して、人にイメージを沸かせて、人の心の錯覚を利用している」と、入管の「イメージ戦略」について警鐘を鳴らす。

 出入国在留管理庁(いわゆる「入管」)は、「送還忌避者」、つまり祖国へ帰りたくても帰れない人や帰りたくない人の「3分の1には前科がある」ということを強調している。そして入管庁が発表する資料や国会での答弁において、「殺人」「強姦(ごうかん)致傷」という、非常にショッキングな言葉を用いて、これらの前科がある人々を説明している。

 しかしこの「前科」の中には単に「オーバーステイ」の人々が多く含まれる。つまり、在留期間が切れてしまった人、書類が切れた人だ。それらの人々と、ごく一部の凶悪犯罪者をひとまとめにして、「3分の1には前科がある」と私たちに吹聴しているとしたら、そこにはどのような入管の思惑があるのだろうか。

 このような入管の「イメージ戦略」に絡め取られている人々も少なくない。

■日本語しか話せないのに

 そして、このようなマイナスイメージの犠牲になる子どもや青年もいる。

 日本に生まれて、過酷な環境や貧困の中で育った子どもたちの中には、そのような環境で育った日本人の子どもたちと同様、非行歴や前科がある者もいる。しかし、日本で育った外国籍の子どもたちにとって、このようなマイナスの経歴は、文字通り「命取り」になることがあるのだ。

現在でも、例えば非行歴や前科を考慮されて、日本を出国させられてしまう場合があるからだ。日本しか知らない、日本語しか話せない子どもや青年が、家族と引き離され送還されているという現実があるのだ。

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「子どもが切り捨てられてしまう」