難民申請中の外国人の送還を可能にする入管難民法改正案が衆議院を通過し、参議院で審議されているなか、廃案を求めるデモが各地で起きている。東京・渋谷でも大規模なデモがあった。
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5月21日の日曜日。気持ちのよい初夏の日差しが注ぐ中、大勢の人々が表参道から渋谷への道を声を上げながら行進した。DJブースが載ったトラックの周りでリズムを刻む人、民族楽器の太鼓を演奏するミュージシャン、旗を振りながら歩く人。若い人々も多く、華やかなパレードはさながら音楽フェスのようだ。
参加しているのは、入管法改正に反対する人々だ。思い思いのプラカードを手に数千人が集結した。「ひとを殺すな」「人権を守れ」「送還ではなく保護を」。2021年に名古屋市の入管施設で十分な医療を受けられずに亡くなったスリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)の写真を掲げている人も多い。
行進の先頭には、ウィシュマさんの妹のワヨミさんとポールニマさんの姿があった。ワヨミさんは言う。「国会では、姉の死が明らかにされていません」「それどころか議員から姉が詐病を訴えていたとか、ハンガーストライキをしていたといった発言がなされました」。
ワヨミさんが言う「議員」は、国会で問題発言を繰り返した梅村みずほ議員(日本維新の会)のことだ。国会という場で、遺族を傷つける発言を容認し続けた党の姿勢事態も問われているところだ。
■直木賞作家も「廃案に」
直木賞作家の中島京子さんも、行進の前に声をあげた。スリランカ人の男性と日本人の女性の恋愛を描いた小説『やさしい猫』(中央公論新社)のドラマ化が6月にひかえている。
「私に入管施設の内部のことを教えてくれたイラン国籍の男性は、名前を変えてほぼ本人そっくりの人物として小説に登場しますが、現在2回の難民申請を却下され3回目を申請中で、このたびの改悪案が通ったら強制送還の対象になりえます」(中島さん)
「(小説に登場するある人物も)実在するクルド人青年のいくつかの体験を参考にしました。その日本で育っている青年たちも、この『改悪案』が実現すれば、強制送還の対象になりえます。(中略)見たこともない母国や迫害が待ち受けている国に送り返されそうになっている人たちがいるのに、ただの物語として彼らの体験を消費するようなことはできません。私はこの法案は絶対に廃案にしなければならないと思っています」(同)