「広告を出したあとは土日でも社長以下全員出社して資料請求の電話を受けました。大量にかかってくる電話は懐かしい思い出です」
DLJディレクトSFG証券はその後、楽天による買収で楽天証券へ社名変更。楠さんの社長就任は2006年。楠社長体制になってから、2023年で18年目だ。
ここ数年の楽天証券の口座獲得数はすさまじい。原動力は投資信託のクレジットカードつみたて。ネット証券初のサービスで、全投資信託の1%ポイント還元により爆発的な人気を博した。
現在は信託報酬の水準や利用するクレジットカードの種類により0.5~1%(2023年4月13日に新たな変更を発表)に見直された。楽天キャッシュによる投資信託つみたては0.5%だ。その理由は?
「ポイント還元の原資になる投資信託の信託報酬自体が何度も引き下げられたためです。運用収入を大幅に超える還元は厳しい。どこかの赤字を別の黒字で埋めるビジネスは永続しません」
つみたてNISA(少額投資非課税制度)で人気ナンバーワンの「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」を例にする。信託報酬は0.09372%以内だ。
この投資信託1万円分を投資家が保有していると、楽天証券の儲けは年3円ちょっと。クレジットカードつみたてで買った顧客に1% =100円を還元したら、元を取るまでに約30年もかかってしまう。確かに「永続的ではない」。
一方、楽天証券にはつみたてとは真逆の「定期売却サービス」があり、定率、定額、定口の3種類から選べる。いったん設定したら自動的に売却してくれるので、老後にありがたいはずだ。NISA口座の定期売却にも対応している。
定期売却サービスが完璧に整っているのは、楽天証券だけである。SBI証券は今のところ定額の解約のみでNISAは非対応。それ以外のネット証券は現状、定期売却サービス自体がない。
投資信託を自動的に売ってくれるサービス。証券会社から見れば「自社の利益減少をサポートするサービス」ということになるが。
「投資には出口が必要です。リタイア後の現金化までカバーするのが本当の証券サービスですよ。うちは一生、面倒を見ますから」
かつて取材で聞いた楠社長の「お客さま第一」という言葉。有言実行の気持ちいい実例である。
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編集/綾小路麗香、伊藤忍
※『AERA Money 2023春夏号』から抜粋